[携帯モード] [URL送信]
…いきたいな

様態が安定し一週間経った。

この日は大阪の四天法寺や神奈川の立海のみんなが見舞いに来てくれていた。
皆、このんの様子に安心したような笑みを浮かべている。

白「ホンマ、起きてくれてよかったわ
傷はまだ痛むやろ?」
「まだ、いたい…の。
ちょっとだ、け…話…せる…です。」
柳生「無理なさらないでくださいね」

気遣ってくれる皆が優しくてこのんは小さくわらった。
だが、すぐに暗い表情になった。

「……ごめん、なさい……」
切「チビっ子……?」

いきなり謝ったこのんに、どうしたのだろうかと心配げな表情を見せる切原。
小さな少女は一度固く目を閉じてから、皆を見た。

「……合宿…まだ日にちあったのに…
わた…し、が、……」

喋るたびに鋭く痛む傷…
今となっては、日吉を守れた誇らしさ以上に皆が楽しみにしていた合宿を中止させてしまう原因の一つになった憎しみの方が強い。

本来なら、あのとき傷を負わずとも日吉を守れた。
何故庇わないと守れなかったのかという原因は二つあった。

ひとつは、桃城から受けた打撲傷。
もう1つは、無理矢理でも稽古をしたことだ。

試合で日吉を背負い投げる程度はこの二つの負担はかからない。
だが、二人よけることはできない。
あの距離と速さから、このんの頭に浮かんだ方法は自分が盾になるしかなかった。

原因を作った原因も、自分だ。

いくら反省や後悔をしても、残るのはぐるぐると心に絡み付く黒いものだけだった。

どんどん後悔の海に沈んでいれば、このんにしてみれば大きな手が頬を掴んだ。

むにっ

財「あんたアホか。
日吉に勝てて、守れたんなら文句ないやろ。
それでも文句言う奴は俺がしばいたるわ
謙也さんなら尚更」
謙「俺に恨みでもあるんか財前」
財「数えきれんッスわ」

喧嘩(?)を始めた二人をぽかーんと見ていればぽんっと頭に手を乗せられた。

笑顔な丸井だった。

丸「お前が治ったらチャラってことだろぃ?

仁「はよ治さんと赤也がいつまでたっても落ち込んだままナリ」
切「ちょっ…!?
テキトーなこと言わないでくださいよ!!
……まぁ、早く治んねーとコイツ返してやらねーからな!」

ニカッと歯を見せながら笑い見せたのはいつか捜していたウーパールーパーのぬいぐるみだった。
あ、と目を丸くして切原を見上げる

「うー…ちゃん……!」
柳「渡そうとしていたが試合に気をとられ忘れていた確率96.8%だな。
こう言った赤也からぬいぐるみを取り戻すのは約束しない限り難しいぞ」

得意気な後輩にやれやれと多少呆れながらもこのんの味方になる気はないようだ。
うーっと唸りながらも折れたのはこのんだった。

「やっ、やくそ…くする、のっ
がん、ばっ…て元気、なるっ!」

ゆび、きりする…からー!と小指を差し出した。
それに満足したのか切原はニッと笑って一回り小指を結ぶ。

切「じゃあ、約束だからな
ゆーびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます!指切ったっと」
仁「赤也だけだと不公平じゃのぅ」
幸「そうだな…
辛くなければ、ここにいる全員と指切りしようよ」

にっこりと幸村は笑った。
美しい笑顔だが、そのときのそれは流石のこのんにも『素敵な笑顔』に見えたそうだ(後日談)。

結局、全員と指切りをした。
多少疲れたが、こうやって心配して貰えるのは申し訳なくも、嬉しくも思えた。





賑やかな彼らが帰った夕方、沈んでいく夕日をぼんやり見つめていた。

小さな頃、外で遊んではよく夕日の沈む時間に少し大きな背中におぶられ帰った。
怪我をすれば怒られて、泣いていたら慰めてくれて、笑っていれば叩きながらも一緒に笑ってくれた……

「……わか…し、くん」

ーーかくれんぼ、まだ終わってないんだね……

静かに目を閉じて心の中で呟く。

ふと、暖かい手が頭に乗せられた。
気になって目をあければ双子の従兄弟がそこにはいた。

淳「このん…来たよ」
亮「寝てた?」
「…ううん……、考え、てた。」 

小さな頃は一ヶ月に1度は会っていた大切で大好きな兄貴分たち。
二人が見分けがつきにくい髪型だった時から、二人を見抜いたそっくりだけどちょっとした似てないところを知ってたから。


このんは似て非なる双子に、ゆっくりと胸のうちを話した。

それに、二人は驚きを隠せなかったが、やがて笑って認めてくれた。
反対されるかもしれないと思ったが木更津兄弟はそろってこう返すのだった。

亮/淳「「大切な妹のこのんが決めたことだから、やりたいようにやればいいよ
」」

ただし背一杯やってきなよ、と背中を押してくれた。
二人の言葉が、温かくて、泣きそうな笑顔を浮かべた。

「あ、りがとー……大、すき」
亮「クスクス、ありがと。
…もう少し寝なよ。疲れただろうしね」
淳「母さんが来るから、次起きたら着替えさせて貰って。」
「…………、
…ん…おやすみ……あっくん…りょっく……」

ぽんぽんと優しく叩かれ瞼が下がる。

ゆっくり口を動かし一言呟いて静かに眠った。
それに、二人が悲しそうな笑みを浮かべたことは知るよしもなかった。




(「…いきたいな」)
(そう言ったのは、なんでだろ……)

[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!