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バカでいーの

周りが騒がしい中、小さな身体は微かに動く。
それを先に察したのは、ずっと手を握っていたこっちゃんだった。

こ「!このん!」
研「…こっちゃん…?」

こっちゃんが叫んだことで皆がベッドのふたりに注目する。
閉じていた重い瞼がゆっくりと持ち上がった。
虚空を見つめたまま、このんはなにも反応しない。

竜崎先生が恐る恐る声をかけた。

竜「暁来さん、わかるかい?」
「……………」

機械音だけが響く。
なにも反応しないまま、5分が経とうとしたときだった

「……………、おと…さ……お……さ………」
研「このん……、何…?」
「……」

目を閉じた瞬間、ひとつ雫が零れ堕ちた。


「……おとーさん、おかーさん」


悲しそうな声だった。

ガラリとドアが急に開いた。 
入ってきたのは黒髪の少年二人
後ろにケンゾーくんがいるのを見る限り彼がふたりを呼びにいったのだろう。

?「このん、は…」

片方の短髪の少年がこのんを見れば、少女も目を開いて合わせた。
一瞬目を丸くしたが、懐かしそうに少し細められる。

「……、りょっくん…あっくん…」

りょっくんこと六角の木更津亮とあっくんことルドルフの木更津淳は眉を寄せ、ゆっくり横たわっているこのんに近寄った。
亮「このん…、おはよう」
「…、…うん……お、はよ………
……びょ、い…ん……?こ…こ…」

肺を損傷しているためか痛みを堪えながら尋ねる。
少し目線をさ迷わせて見える範囲辺りを確認すれば、合宿所でないことは明確だった。

こ「そーだよ…
ここは病院で、このんは一週間も目を開けてくれなかったんだかんな。
……退院したら問答無用でデ○ノートフル観賞の刑ね。ニアの素晴らしさをとくと味わいやがれ」
研「黙れ。デ○ノートの自称新世界の神に裁かれてしまえ。削除」
こ「ぶっww、似wてwるwwwwww
てかそれ自称新世界の神じゃなくて」
淳「……うん、もう黙ろうね(黒笑)」

淳の素敵な笑顔に二人がダイナミックDO★GE★ZAをするのは一秒もかからなかった。

やっと話を修正し、このんはふとあることを思い出す。

「……、りょっ…くんと…あっく…ん………
ど、したの……?」

やけにあわただしく入ってきたクールな二人に少し疑問があり亮と淳を見上げる。

双子の表情は強ばり、少しの沈黙の後意を決したように口を開いた。


亮「……このん、落ち着いて聞いて。
…、真人(まこと)さんと寿羽(ことは)さんが………


ーーー亡くなった」


真人と寿羽は、このんの両親の名だ

このんは一瞬目を見開いたが、やがて悲しげに目を細めた。 

ーーー嗚呼、やっぱりか…

と。

このんの代わりのように声を上げたのはこっちゃんだった。

こ「なんで…
なんでこのんのパパママが死んだの…っ!?
おかしいじゃんかッ…!
なんでこのんばっかしこんな目に遭わなきゃいけないんだよッッ……!!!」
研「…こっちゃん、落ち着いて。
気持ちはわからなくはないけどさ…
………、このんは……泣かないんだな………」

ケンゾーくんがこっちゃんを宥めながら、ふとこのんを見る。
皆が泣き叫んでいるこっちゃんからこのんに視線を変える。

悲しそうな表情をしているが、涙はなかった。

「……、……寝て…たとき……ね…」

このんは少し下唇を噛み、震えそうな声を抑えて答えた。

「おとー…さん、と……お…かーさ、が……
消え……ちゃっ……た」

夢だったのかもしれない。
でも、双子の口から聞いたことが、真実だったのだと理解させられた。

誰が息を飲む音がした。

「…真っ暗で……もうしんじゃうんだっ…て………思って、た……
そ…した……ら、ね……
もーひとり…の……ちっちゃ、な……わたし……おこった……の
ない…て、たの……
わたし……いきたかった……。しんじゃう…の……イヤ、で……たくさん…たくさん泣いた……
その、ときに……おとーさん、おかー…さんが……ぎゅっ…て……抱きしめて……くれたの
……でも、お、と…さんと、おかーさん……消え、ちゃっ……た

あい、してるっ………て……笑って……」

悲しいくらいに、綺麗な笑顔だった二人はもういない。

このんは、笑った

「…おかーさ、んおとーさんは…ね、し…んぱいしょ……だから…
泣、いたら…、安心、して…新しーせかいに…いけ、ないの…」

裂けてしまうような激しい痛みが身体に残って、大好きな親も、大好きな幼馴染みもいない世界になってしまっても…
まだ、泣くわけにいかなかった。

こ「……、このん……
っ、もういいっ…」

こっちゃんはどこか不機嫌そうにこのんを睨んだ。
その行動には二人の友人であるケンゾーくんも予測できていなかったからか目を丸くした。

研「…こっちゃん、もういいって………」
こ「このんはバカ過ぎる。
泣いたってこのんのパパママは許してくれるのにっ…
このんが泣いてないのに私が泣いてさぁっ……!
泣かないこのんなんてもういい…
私が脱水症状になるまで泣いてやらァアァアアアア!!!!」
研「………とりあえず
叫ぶな」

ふたたび暴走気味なこっちゃんの頭をスパーンッとぶっ叩く。

こ「痛いッ!!
〜っ叫ぶに決まってっしょ!
このんが変な方向に忍耐強くなってボロクソになって、しかもパパママが死んだぁ?!
この状況でこのんが冷静過ぎてこっちが頭おかしくなりそうだってのッ…」
研「…いや、頭おかしいのは出遅れ…」
こ「黙らっしゃいッ…!自覚してんわッ!!!
と・に・か・く!!
入院中は絶対に安静しないと許さんからな!
おとなーーーーしくベッドに平伏せとけッ…!!!」

びしっと指を指して、いい終わったら満足そうに肩を下ろした。
なんだかんだふざけていても、こっちゃんは優しいのだ。


「……こっちゃん…」
こ「…、なーに?」
「……ありが、と」

泣かない自分の代わりに泣いてくれてありがとう。
自分を支えてくれてありがとう。
親友になって、くれてありがとう。

ただただ、感謝ばかりだった。

それが伝わったのか伝わっていないのかわからないけど、こっちゃんは少し目を丸くしてから笑った。

こ「ホント、このんはバカだねぇ。」

このんも、笑い返した。

「バカ…で、いーの……」

お調子者なこっちゃんがまた調子にのって淳の笑みの前で土下座するまで、あと2分……


(こっちゃんだってバカだから、おあいこだね)
(そう言えば、こっちゃんはわらったの)

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あきゅろす。
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