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さよなら
このんは、真っ白な部屋の真っ白なベットに横たわっていた。
無情に鳴り響く遅すぎる機械音に点滴の雫が落ちる音

このんの呼吸はか細い。

医者に告げられた。
今夜が峠だと……
峠を越して生きたとしても、目を開けることはかぎりなく奇跡に近いことを……

こ「なんでッ…なんでこのんが……」

病室によばれたこのんと仲のよい二人、こっちゃんこと森本ことなとケンゾーくんこと下村研介は友人を見つめる。

今病室にいるのは、この二人と榊監督、竜崎先生だけだ。
部員たちには、合宿を強制的だが終わらせ支度をするよう伝えている。
恐らく、誰もこのような状態では集中できないと考えたからである。

榊「私の浅はかな考えで、このようなことになってしまった…
本当に申し訳ない」
研「……このんの両親とは、連絡とれました…?」

静かにこのんを見つめたまま尋ねる。

榊「…いや、まだだ。」

何故かいくら連絡しても両親のどちらにも連絡がつかなかった。
父親の会社の社員も母親の会社の社員も「社長は休暇をとっています」、だ。
このんの携帯を借りて二人に電話したが留守電サービスにすぐ繋がる。

榊は妙な不安を抱いたが、忙しいのだろうと考えることにした。

コンコン、とノックの音が響く。
竜崎先生が返事をすればオサムちゃんがひょっこり顔を見せる。

渡「日吉くんの家族とこのんちゃんの従兄弟くんが来たんやけど…
入れても大丈夫やろか?」
竜「…会わせた方がいいかもねぇ」

ドアが完全に開けられれば、日吉の家族と従兄弟と思わしき少年二人が入ってきた。
榊監督と竜崎先生は彼らに面識があるため目を見開いた。

榊「!…、君たちは…」









[このんside]

なんにもない…
まっくらで、なにも見えない

わたしは、しんじゃったのかな…?
わかしくん、もとにもどったかな?
……、わたしは、がんばれたかな……?

刺されたこと、覚えてる。
すごく熱くて、痛くて、…かなしくて
けど、わかしくんまもれた
だから、よかった










…よかったの









ーーーホントニ?







目の前に、小さな女の子がいた…
わたしはこの子をしってる

ーーーホントニ、良カッタノ?

女の子がわたしを見たままたずねてきた。
わたしは頷いた。
自分のかたちがあるのかわからないけど

女の子は、フキゲンになった

ーーーウソツキ。
ーーータクサン後悔シテルクセニ。

嘘じゃない、て言おうとしたら

イキが…息がくるしくなった……

口をふさがれているような、水におぼれているような…
そんな息苦しさ

女の子はわたしにちかづいた

ーーーオカアサントオトオサンニ会イタイクセニ…

女の子とわたしの距離が、手をのばせは触れるくらいになった

ーーーオ友達ト遊ビタイクセニ…

女の子とわたしの距離が、ぶつかりそうなほど近くになった


ーーー「わかしくん」ニ名前ヲ呼ンデホシイクセニ…!!

女の子の顔が、近くにあった


この子は、むかしの……イジメラレテイタ「わたし」ダ
「わたし」が、泣いていた

ーーーイヤダヨ…シニタクナイ…死タクナイヨ…!
ーーーオトオサントオカアサンニ会イタイ…!!

膝をついて、泣きじゃくっている…
この「わたし」は、わたしの本心なのかもしれない…

だって、わたしも泣いてるから…

わたしは、「わたし」を抱きしめた。
息苦しさなんて、わからなくなったほどに、強く

「わたしも、生きたいよ…!死にたくないッ…
死にたくないよッ…!!!」

ーーーヒトリハイヤダッ…

「おとーさん、おかーさんッ…
こっちゃん、ケンゾーくんッ…

わかしくんッ…」

「ーーーわたしをヒトリにシナイでッ…!!!!!!」





?「大丈夫、あなたはヒトリじゃないわ…このん」

温かい、優しくて懐かしい人たちが、わたしたちを包んだ。

「…お…かあさ……ん………?」

ーーーオカアサンッ… 

父「よく頑張ったな、このん」

ーーーオトオサンッ… 

わたしの、だいすきな…家族
わたしたちは、おとーさんとおかーさんに抱きついた。

だいすきな、だいすきな二人がいるっ…!

嬉しくてわんわん泣いた。
おとーさんとおかーさんはそんなわたしを優しく撫でてくれる。


でも、しばらくしてゆっくり離された。

どうして…?

「おとーさん、おかーさん…?」 

おかーさんは悲しそうに笑う
おとーさんは辛そうに目を伏せる

ねー、なんで…?

「なんで……おとーさんとおかーさんの足…消えてるの…?」

灰になるように、少しずつ…少しずつ足からなくなっている。
おかーさんが、わたしのほほを両手でつつんだ。

母「ねぇ、このん…
まずあなたに謝らなければいけないことが3つあるわ…
よく、聞いて」

わたしは頷いた。
おかーさんは笑みをけした

母「ひとつめ、……あなたを刺した女の子……桃百合姫華は私達の前世の子供なの。
私達が…愛情を注がなかったばかりに狂わせてしまった…
あなたのだいすきな若君たちをバラバラにしてしまった…
あなたを、悲しませてしまった…傷つけてしまった…」

わたしはわかる。
すごくフシギな話しで、とっぴだけど…おかーさんの言葉はほんとーだって…

父「あの子は前世で私達を殺した。
この世界にくるための生け贄としてね

私達は神様のおかげでこの世界にいて、このんを産んだ。
……そこからが、私達の謝らなければいけないことのふたつめだ。

私達は、このんを怖がって逃げていたんだよ…」

怖がって…逃げて…?

「…こわい……?」
母「そう、怖かったの。
お父さんとお母さんは、一度自分の娘に殺された。
…その記憶は、この世界でもずっと持っていてあなたが産まれた時……
…最低だけど……絶望した。
なんで男の子じゃないの?って…」

なんとなく、わかった。

父「娘に殺されたことで娘を拒絶するなんて、私達は親失格だ…」

泣きそうな顔のふたり。
でもね、わたしはいまならわかるよ。

「…だれだって、ころされるのこわいよ
だから、怖がってよかったんだよ…おかーさん、おとーさん」

トラウマになってアタリマエ。
わたしも、いたくてこわかった。

そういったら、おかーさん泣いちゃった…
おとーさん、悲しそう。
つらかったんだね、わたしたち家族は

もう、おとーさんとおかーさんの腰まで、灰になっちゃってる。

「……、わたしね、しあわせだったよ」
母「!…このん…?」
「おとーさん、おかーさんのこどもに産まれたの。
こっちゃんやケンゾーくん、美玲さんと友達になれたの。
わかしくんたちといっしょにいれたの。

全部ぜーんぶシアワセ。」

しぬまえに、おとーさん、おかーさんがだきしめてくれた。

ぜーんぶ、もう消えてしまってもきっとつぎもシアワセになれるきがする。


「この世界でわたしを産んでくれてありがとう、おとーさん、おかーさん。」




















父「…このん、ありがとう。
……すまない」


いきなり、グラッと身体が…揺れた。
おとーさんが、わたしをつきとばしたから。 

「ぁっ…!?」
父「最期に、謝らなければいけないこと…
それはな…」
母「ッ…幸せに、なりなさい!このん!!
まだ、あなたはこの世界で笑っていてッ…
若くんたちと…一緒にッ…!」

理解してしまった。

おとーさん、おかーさんの身体が消えているのは、わたしの世界が消えてしまうからじゃない。

おとーさん、おかーさんが消えてしまうからなんだと

「っやだよッ…!
きえないで!おとーさん、おかーさんッ…!!」

手を必死にのばしても、距離がとおざかるだけで…
おとーさんおかーさんは、よりそって消えてしまった…。

「いやぁああああああああああ!!!!!」


父/母「「このん……愛してるよ/愛してるわ」」

ふたりとも、笑ってた
シアワセそうに

「おとーさんおかーさん!!!!!!!!」

つきとばされたわたしは、だれかに受けとめられた。

「ッ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァああああああああああああ!!!!!!!」

おとーさんとおかーさんが、いなくなった。
おとーさん、おかーさんのいた場所は、なにもナクナッテ…


シ「喚くな。」

冷たいコエが、わたしのくちをふさいだ。
ほんとーに、ふさがれてるわけじゃないのに…わたしののどがコエを出さなくなった。

ううん、出さないんじゃない。
ダセナイ。

ゆっくり振り向いたら、まっくろな…シニガミさんが…いた

シ「あのふたりが望んだことだ。
お前が否定してやるな」

シニガミさんの表情はなかった。

シ「誇れ。
お前の親がお前を暁来このんという存在を世界に残したことを。
生きてシアワセというものを見つけなければ、あのふたりが報われないだろう。
だからこそ、誇れ。」
「ぁッ…」

シニガミさんのことばが、わたしの心をくるしくする。
…でも、うれしくもする

おとーさん、おかーさんがこの世界にいたことをみとめてくれるから。

わたしがここにいていいって言ってくれたから。
張り裂けるようなコエは出なくなった。
まだ、こころが裂けてしまいそうなほどいたくてかなしくても……

嗚咽しか、出なくなった。
ちいさくうなずいて、へんじをする。

「っ、ひっくッ…ぅ
は、い…。」
シ「…お前の本体に導いてやろう。
ついてこい」

そう言ってシニガミさんが手をひく。
だからふらふらさはてもついていった。

あるくさきは真っ暗でひかりはない。
でもまっすぐ。
ちょっとだけ、ふりむいた。

「……さよなら…………」

あいしてくれてありがとう。
大好きなおとーさんおかーさん…

ふたりを、わすれないから

流れる涙をぬぐって、シニガミさんの背中に目をむける。
もうふりむかなかった。




まぶしいひかりがみえるまで、あと……



(かえるのはコワイ)
(それでも、ふたりとわたしがのぞむから歩けるよ)

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あきゅろす。
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