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とある少女の末路

桃百合は森の中を走っていた。
やけに暗い森の道をがむしゃらに、走り続けている。
狂気を纏ったまま

不意にくるりと後ろを向いて追っ手が来ないことを確認すれば息を調えながら立ち止まった。

いくら早めに逃げたからと言って、運動部の男子たちの追っ手が来ないのは何故かなんて、今の彼女は気にすることはなかった。
気にすることはただひとつ…


##_4##「ハァ…ハァ…
そろそろあのちび女死んだかしらぁ?
神様ぁ!イケニエをあげるからこの世界じゃない『テニスの王子様』の世界に連れてって!!
この世界は姫華に相応しくないわよ!」

時計を確認し、木々に隠された空を仰ぐ。
森の深い場所で、彼女は叫ぶ。
そして求める。

こんどこそ、自分に相応しい世界を
自分を盲目に愛してくれる『王子様』たちを
自分の思い通りにいくすべてを



?「我を呼んだか?小娘」

ふわりと木の上に黒を纏った彼が降りた。
服装は会った時と違っていたが、端正な顔や金の瞳はこの世界に連れてきてくれた彼そのものだった。

自分の今求めている彼が現れ途端に目を輝かせた。
が、不満がつよいためかすぐしかめる。

桃百合「神様!神様なのねっ!?
ちょっと、なんで姫華は愛されないのよ!
こんな世界おかしいわ!!
早く違う世界に連れていってよ!!」

『神様』に近寄り文句を言う。
彼は薄く笑みを唇で作り、可笑しげに少女を見た。

?「何を言う…?
すべて貴様の望みを叶えただろうが
端正な容姿を手に入れ、新たな名を手に入れ、異なる世界に来ることができ、恵まれた地位に金銭を手に入れ、そして多くの人間に愛された
それ以上に何を望む?」
桃百合「あのちび女の存在消去よ!
あれがいたから完璧な姫華の世界ができなかったんでしょ!?
あのちび女を他の神様が連れてきてみんなを奪ったのよ!そうに違いないわ!!」

自分がこんな目に遭うのはすべてはちび女のせい!あのちび女を殺したんだから新しい世界に連れてって!
そう叫んでいる桃百合を、彼は嘲笑う。

なんて愚かな小娘だ……
僅かな慈悲なんざ与えるべきではなかったな

嗚呼、これで…

?「ーーゲームオーバーだ。」
桃百合「えっ?」

彼の容姿が変わった。
黒いファーコートから漆黒のローブに、
そして、彼の手には………巨大な鎌

?「いつから我は貴様の『神様』とやらになった?
我は神ではあるが、……シニガミが正解だ。」
桃百合「えっ…ぁ、う…そ」
シ「貴様はそれらを望んでいたが故に注意点を聞き漏らしていたな…
今、特別に教えてやろう
一つ、この契りを交わせば願いを叶えるが欲が深まれば深まるほどそれは消える
二つ、新たな世界で罪を生めば奈落逝きとなる
三つ、……願いを叶え終え、我を呼ぶ時は命を返すことを了承したとして………死が下る」

鋭く、巨大な鎌がギラリと光る。
桃百合は、顔を青ざめシニガミを見上げた。
正体に、やっとキヅイタ。
でも、もう遅かったことを察したため

桃百合「う、嘘よね…?
死にたくないわよ!!ほんとの神様なら姫華を愛しているから助けて…」
シ「神なら、貴様を見捨てた。
まぁ、強欲が故の罰ではあるな」

絶望する
誰も助けてくれない、自分の死なんて嫌だと

シニガミがゆっくりと歩み寄った。
そして、甘く妖艶な笑みを浮かべる。

シ「この者たちが、貴様を赦すならまだ命を奪わんが…な」

何を言っているのだろうかと思っていれば、彼の後ろの木々から二人、人が現れた。
恐らく夫婦だろう。
誰かに似ているが自分の知らない者たちだ。

二人はシニガミに歩みより、小さく頭を下げた。

?「シニガミ様、お久しぶりです。
あの時はたいへんお世話になりました。…いえ、今まさに…でしょうか」

女性が柔らかな笑みを浮かべ、礼を述べれば桃百合を見た。

シ「そうだな。
…小娘、貴様はこの二人を知っている筈。
何よりも、な」
桃百合「し、知らないわ!誰よ!?」

心当たりがないと叫ぶ。
この世界で知ってるのはキャラクターとこのんだけだ。
が、男性の次の一言で、思い出した。

?「………、* * * 」
桃百合「ッ…!?
……ま…さか……
お、お父さん、お母さん……?」

それは、この世界にくる前の、自分の名前。
言われて見れば、雰囲気が両親そのものだ。

シ「この二人は生まれ変わりを神に約束され、この世界にいる。
いわば神の慈悲、というものだ。
少なくとも前世を覚えているため、この場の審判には相応しいと思い呼んだ。」

淡々と告げ、桃百合を見下ろす。
元両親は悲しげに頷き、前に出た。

これはチャンスなのでは、と桃百合は懇願し出した。

桃百合「お父さんお母さん!
私はまだ生きたいのよ!!まだ私の望む世界じゃないけど私が私の世界に変えたいの!
可愛い我が子なんだから殺したことなんて赦してくれるでしょ?
お願い!大好きよ、お父さんお母さん!!!」

すがり付き生を求める彼女に、母はゆっくりと手を伸ばす。
優しく、頬に手を添えた。

母「…そうね、親は子供が可愛くて可愛くて仕方ないものよ
だから、ね…あなた」
父「そうだな…親は愛する子のために何かしてやらないとな……」
桃百合「お父さんお母さん…!
やっぱり素敵な親ね!」














母・父「シニガミ様…、この子を、* * * を地獄に堕としてください。」

桃百合「……え……?」

元両親の言葉に、桃百合は訳がわからなくなった。
シニガミはニヤリと笑って…

シ「了解した」

と鎌を振った。
闇が、彼女を包んでいく。
地獄に誘うように、呑み込んでいくように

桃百合「なんで…なんでッ…!?」

喚き叫ぶ彼女に、父は穏やかな表情を消した。

父「お前が私たちを殺した理由は、少なくとも私たちの責任だ。
…だが、この世界での罪……なにより、私たちの大切な娘に手をかけたことは赦せない。」

母もそれに続く。

母「あなたは知ってるでしょう?
…私たちの愛する娘、
ーーー暁来このんを」

二人は転生し、再び巡り会った。
そして、新たな子を…このんを産んだ。
今の二人にとって愛する娘は、桃百合が刺した栗色の髪の小さな少女なのだ。

シ「もとより、貴様が罪を理解し償えば地獄逝きにはならなかっただろうな。
やはり、欲深い者はできないものだ…

じゃあな、小娘よ」

闇が完全に呑み込んだ。
彼女は、抹消された。

シ「…さて、二人はどうする?
愛しき娘の残り火は少ない」

彼の手元に現れた小さく、今にも消えそうな灯火…
それは、このんの命だった。
二人は悩む様子もなく、穏やかに告げる。

母「あなた様から、あの子の危険を知らされた時から、覚悟しております。」
父「私たちの命を、このんに…
元々、私たちはこの世界にいるべき存在ではありません…。
きっと、* * *を止めるために生まれ変わったのでしょう…」

シニガミはふっと笑う。
どこか満足げに…

シ「やはり親子か…
あの娘が悲しむかも知れんぞ?
親が自分のために命を差し出したと知ってしまえば」

だが、と続ける

シ「それが最もな選択なのかもな…
覚悟はできているか?」
父「はい」
シ「特別に精神に入らせてやる。
あの娘を導いて来世にいくがいい」

さらばだ、そう呟けばシニガミは二人を鎌で切った。
夫婦の姿は、煙のように消える。

誰もいなくなり、シニガミはふっと息をついた。

シ「夫婦の死因と小娘の失踪原因を作らなくてはな…
いい加減、休暇を神々らに貰うか」

シニガミの仕事は尽きない…
彼は風とともに、姿を眩ませた。


彼らの会話を、誰も知らない。


桃百合を追っていた部員たちが引き返すまで、あと30分…

(こうして、愚かな少女はステージから消えた)
(彼女の末路は誰もシラナイ)

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