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わたしががんばるの
小屋にやってきた幸村たちに気を落ち着かされて震えは消えた。
不安は消えないが

「ドリンク、おくれてごめんなさい…です」
幸「気にしないで。
あのピンク頭がいて作業できたのがすごい方だしね。
…それより、大丈夫かい…?」

柔らかな口調で幸村は尋ねる。
理由は詳しくはわからなかったが、桃百合が小屋から出てきたことや異常なほど顔を青ざめ、震えていたこのんを見ればだいたい把握できた。
このんは小さくコクリと頷く。

「しんぱいおかけしました、です
もう、だいじょーぶなの」

へにゃり、と笑ってみせたがいきなり真田に拳骨を食らった。
普段なら石頭で日吉がどんなに叩いてもあまり痛みをかんじなかったが、真田の拳骨は響いたのか頭を押さえた。

「うっ……!」
切「ちょっ…真田副部長っ!?
いきなり何チビッ子に拳骨食らわせてんスか!」

暴力反対ッス!!と切原が庇うも真田は仁王立ちで腕を組み、眉間にシワを寄せどこか苛立ちを見せている。

真「たわけッ…!何が大丈夫なものか!!
くだらん誤魔化しをするなッ!!」

真田の頭に浮かぶのは、見えたのは一瞬だったが確かにこのんの首を本気で掴もうとした桃百合の手。
自分があと少し遅く乱入していたならば、それは細いその首を折る勢いで握られていただろう。

各学校の部長や勘の鋭い者たちは真田の真意をすぐ察した。

千「……暁来さん、
無茶はいかんばい。」
金「暁来ちゃんはがんばり屋さんやけど、無茶ようやるからなぁ…
何かされたら言わんとウチらでも気づいてやれんくなるで」

苦笑を浮かべて諭すように言う千歳と金色にこのんはほんの少し眉を下げた。

「…だって、あのひとこわいもん
言ったら、なにかしそうだからこわいの…」

昔いじめられていた時、いじめッ子たちは言ったらひどいことをすると言っていた。
日吉の助けで「ひどいこと」はされずに済んだ。

だが、今回は場合が違う。
あの少女の目は、狂っていた。
桃百合なら、平気で人を傷つけそうだ。
一度、友人であるこっちゃんに言われた言葉が過った。

『サイコパスっていう自分至上主義で自分に逆らう奴は皆殺し的な人間って現実にいんのかなぁ…
いたら疾風の如く駆け抜けないとねぇ…ww
典型的なサイコパスといえばあのデ○ノートの月的なww
私はニア派だぁぁぁぁああぁあああッ!!!!』


……あのあとケンゾー君の全力チョップで机に沈んだのは言うまでもない

不「このんちゃん、こっちゃんの最後の言葉はどうでもいいと思うよ。」
「あーい」
海「…何の話っスか」

不二とこのんの不思議な会話(?)に海堂思わず突っ込んだ。
おそらく会話がわかっても理解は難しいだろう。

滝「とにかく、誰かを頼ってね
ひとりの方が危ないってわかっただろう?」
越「さすがに日吉さんの弟子とはいえ、あんな狂ったキチガイ相手にするのは骨が折れるでしょ」

暁来だけの問題じゃないんだしさ、と頭を軽く叩かれる。
どこか反省したように目線を下に下げ、このんは小さく頷いた。
自分の力量なんてたかが知れているのかはわかっている。頼ろうとできないのは、ただの意地だった。

「あい…、…でも、試合はがんばるです。」

これが自分の頑張れることだから、と顔を上げた。

越前は不敵に笑って拳を突き出してくる。

越「なら、やって見せてよね」

一瞬きょとんとするも、意味を理解すればへにゃりと笑って自分の拳をコツンと合わせてみせた。

「あい…!!」

力強く頷いた。









(?side)


『あの日』から、ずっと同じ夢を見る…

何も無い闇の中に俺は立っていて、目の前にもうひとりいる。

……幼稚舎の時の、俺が
俺を、幼い俺が冷めた目で睨み付けてきた。

『……いつまで、囚われているつもりだ?
あいつは、正々堂々向かってきてるだろうが』

あいつ?

幼い俺は、現れる度に『あいつ』という。
名前を、けして言わない。
睨み付けながら、毎回同じようなことを言ってくる。

『いい加減、目を覚ませ
『俺たち』の居場所を、お前は捨てる気か?』

__居場所?俺の居場所は姫華さんの隣だ。
捨てるも何もない

そう返せば、眼光が鋭くなった。

『ふざけるな。
テニスを捨て、約束を違えてあいつを傷つけて…お前は何がしたい!?
あいつを、お前が泣かせてどうするんだよ!
これ以上、あいつを泣かせるなッ…!!』

幼い俺が叫ぶように責めてきた。
俺にはわからない

何故、幼い俺が怒りに満ちた顔で俺を見るのか…
何故、責められなければいけないのか…



不意に、頭に何かが写った。
所々に絆創膏やガーゼだらけの小さな少女と、幼い俺が笑って指切りをしている姿が

少女の顔は見えないが、嬉しそうに笑っている。

__誰…だ…?

懐かしいような、苦しいような感覚を覚え、思わず胸元を握りしめた。
幼い俺が、そんな俺に近づいて見上げてきた。

『早く、あいつとの約束を思い出してくれ……!』

懇願するような僅かに歪んだ表情を最後に、今日の夢は終わった。


桃百合「わかしぃ…またあの子に意地悪されたのぉ!
…?若?」

姫華さんの声でハッと思考を戻した。
…どうやら、ぼんやりしていたみたいだ。

日「すみません、姫華さん
少し考え事をしていました。
…また、あのチビに?」
##_4##「そぉーなのぉ!
…若ぃ、絶対にあの子に勝ってね?若が勝てば、みぃんな元に戻るの!
みぃんな、あの子のせいであんな風になっててぇ!」

ギュッと抱きついてくる姫華さん
…あいつがすべての原因か
ならば、姫華さんのために、あいつをツブサナケレバ…

震える姫華さんを抱きしめ、俺は口を開く。

日「大丈夫です
俺が絶対に勝って姫華さんを幸せにしますから」
桃百合「若ぃ…
さすがは姫華の王子様ね!
大好きだよ♪」

彼女の言葉と笑みに、甘く酔いそうな心地好さを感じる。
いつまでも、姫華さんを守らなければ…

甘美な誘惑に、少しでも、抗っていたならば…
夢という忠告に耳を傾けていたならば…


この先を変えれただろうか…?


少なくとも今の俺にそれを考える術はなかった……






試合の時間まで、あと30分……


(夢で訴えていたのは、本当の自分だったと気付くのはいつ?)
(腕の中にいる少女が震えていたのが、悲しみではなく、狂気に満ちていたものだと気付くのはいつ?)

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