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たりないせかい

あのあと越前と少し話をすれば直ぐに眠った。

そして朝がくればいつも通り一人修行だ。
雪がちらついて寒く、寂しさが増すが無我夢中で行った。

合宿所に戻ったら白石に怒られてしまった。

白「こんな冷たくなるまで外におったらアカンで暁来さん
はよこれ飲みぃ!」

以前と変わらず接してくれる姿に涙腺が緩むもグッと耐える。
そして、ジッと見上げた。

「…もうもどったですか…?
拒絶しないの…です?」
白「っ…!」

僅かに棘のある言葉に、白石は目を見開いた。
白石だけではない…
戻った皆や今フロアにいる者全員だ。

戻った者は眉を下げ、唇を噛み締める。
いつも通りに接しても、責められることはわかっていたが

それでもなんにもなかったかのように接して貰えると心のどこかで思っていたのだ。

遠「お…怒っとるんか?」
「こっちの質問…です。
へんとー…してください」

白石から、昨日まで拒絶していた者たちに目を移す。

やはり無表情で、無機質な…

「なんにもしてないのにおこられた…、
なんにもしてないのに…ひてーされた……!
ジコチューってわかってるです…でも…」

かなしかったしくるしかったのです…

くしゃりと顔を歪める。

沈黙がしばらく続いた。
何故か物音一つ立てることが罪に囚われるように感じて…

沈黙を壊したのは、

?「…ゴメン…ゴメンッ…!!」

短気でプライドが高い…向日だった。
泣いていたのだ。
簡単に許して貰えると思っていた…だからこそ、必死に謝った。

向「俺ッ…暁来に暴言吐いたし、拒絶した…!
もう言わないからッ…拒絶しねぇからッ!!」
遠「ワイもッ…ゴメンなぁ…!
またこのんちゃんと遊びたいッ!話したいんやッ!!
せやから、ゴメンなぁ…!」

遠山も連れれるように顔を歪め、目を潤ませていた。

「…あやまってほしい…とはおもってないです…よ
ただきいてる…です。
戻った…ですか?
拒絶しない…ですか?」
謝ってきた2人に泣きそうに見えた表情が消えた。
このんはただ純粋にそれを聞きたいだけだった。
多少文句も言ったが

白「…戻ったで、ちゃんと白石蔵ノ介や。
んで、もう拒絶はせぇへん…絶対に、や」

しゃがみこんで小さな少女の目線に合わせて、白石は部長らしい真剣な表情で答える。

遠「ワイも酷いこともう言わんからッ!
テニスたくさんやるからなぁ!」
向「俺も否定とかしねぇからッ!
まだテニスしてぇよッ!!」
忍「いろいろなんかズレとるでー」

本当にテニスが大好きなのかテニスの方に頭が行ってるようだ。
このんはその言葉に嬉しそうな表情になった。

「たくさん、テニスしてほしーの…です。
がんばるひと、ドリンクつくるです」

許す許さないはなかったが、わだかまりはほとんど薄れた。
珍しく(いつもよりは)早起きな芥川がこのんの頭をなでた。

芥「…逃げてごめん
俺、このんちゃん頑張ってたのに…寝て逃げてたCー…
もう逃げないし、目を背けないから…」

彼なりに後悔があったらしい。
このんは芥川の言葉にきょとんとするも、ただ笑った。

「ジローせんぱい、にげてない…です。
ジローせんぱいが、ひょーてーやみんな、すきなのいったから、伝えたから、つたわったです…
えらいえらい…なのです」

精一杯の背伸びをして、芥川の頭をゆっくり撫でた。
芥川は目を丸くするも、嬉しそうにいつもの気の抜けた笑みを浮かべた。

芥「ありがとー!!
よおーしッ!丸井くん今日一緒にやろッ!!」
丸「まぁ、オレの天才的妙技たっぷり味合わせてやるぜぃ!」
跡「その前にジローはランニング10だ。
いつも以上にサボってた責任は取れ」
芥「Aー!あとべ鬼ッ!!」
金「ほなら蔵りんや金太郎さん、千歳もやなぁ!」
千「俺はトトロ探しに行くばい!」
白「逃げるの禁止やでー千歳」

昨日以上に賑やかになった部員たちに、このんは嬉しそうに笑った。
だが、まだ足りない…
喧嘩をし合う謙也と財前、越前をからかって遊ぶ桃城と菊丸

そして…

叩くけど時々頭を撫でてくれる日吉

足りないのだ。
戻っていくのをいくら見ててもパズルピースのように

越「…今日日吉さんに下剋上、するんでしょ?」

越前に借りて被っている帽子の上から貸した本人が手をポンポンと乗せてきた。
いきなりのことに多少驚くも、笑ってバッと綺麗な敬礼をしてみせた。

「あい!
せんせんふこく…したもんっ」
幸「あれ…?日吉くんに宣戦布告したんだ…」
「きのー、したです。
じょーけんだしたら、オーケーもらった…です」
滝「条件?」

まさか何か条件をつけたとは思っていなかったのかこのんが下剋上をすると言ったことを知っている者たちは不思議そうな顔をした。
たしかに今の彼は条件を出さねば承諾しないとはわかっていたが

「わたしがかったら跡部ぶちょーたちにあやまる、まけたら島をでていく…です」

空気が凍った。

ガッといきなり切原に両肩を掴まれ驚いていれば物凄い必死の形相でこのんを怒鳴った。

切「お前馬鹿かッ!なんでんなこと約束するんだよ!!
他にもまだマシな条件ならいくらでもあんだろッ!?」
一「せや、切原の言うとおりや!
んなアホな約束取り消さんと死なすどッ!?」

「…じゃないといみないもん」

心配の色の混ざった怒声の中、ポツリと呟かれた。
皆、一気に静まり返る。

「じゃないと、ホンキって伝わんないもん!
ゼッタイ、勝つもん!!」

珍しく、怒っていた。
信じてもらえていないのが嫌なのだ。
子供のように頬を膨らませ、地団駄を踏んでいる。

苦笑を浮かべた柳がしゃがんで頭を撫でた。

柳「すまないな
ただ、みんな心配しているだけだ。お前が勝たないと思っているわけではないから安心しろ」

まだ不服な部分はあるのか頬は膨らんでいるが地団駄を止めた。

「…ウソじゃないです?」
柳生「えぇ、みんな貴女が勝つことを願ってます。
ただ条件に驚いただけですよ」

柳生もフォローをするように優しく言う。
切原や一氏がバツの悪そうな表情をしながらそれに頷いてやっと機嫌は直ったみたいだ。

切「その…なんつーか…
わざわざ出て行かれんのはやだし…
おちびのサポートの方が何百倍もマシだし」
一「あんな奴にサポートなんかされたくないっちゅーの
まぁ、認めてやるで」
金「素直やないなぁ〜ユウくん
ホンマは暁来ちゃんがいなくなって欲しゅーないんやで」

ツンデレやなぁ〜とハートを飛ばす金色にきょとんとしていた。
ツンデレについて前日吉に聞いてみたが教えて貰えなかったから意味がわからなかったりする

不「このんちゃんの機嫌が戻ったし、そろそろ朝食食べに行こうか」

時間を見ればあと一時間で練習開始な時だった。

小「せやな、早よ食べにいこうか」
遠「早ぉ起きたから腹ペコや〜!」

遠山が待てないといった感じで食堂に走っていけば白石が包帯を外しながら追う。

白「金ちゃ〜ん、走ったらあかん言うたやろ〜?」

イイ笑顔だ
一気に遠山が青ざめ止まる。

遠「どっ毒手は勘弁やぁ〜ッ!!」
「?どくしゅ?」
海「気にしたら負けだ」

二人に続いてみんなで食堂に向かう。
物足りなくても、もうすぐ練習は始まる。

とにかく今は朝食をたくさん食べてサポートに専念しようと意気込んだ。




[?side]

どうしてかわからないけれど、足りない
何かが足りない…

姫華さんがいるのに、なんでだ?

きっと、出たいんだ…
早くあっちに行きたい…

でも何故、何故…逃げ出そうとしたら苦しいんだ?
離れようとすれば身体や心を鷲掴まれるような感覚に支配される…

怖い…怖い…!

俺は早く行きたい…!!

『下剋上…ですッ!!』

昨日、あからさまにおかしな日吉に睨みつけ叫んだ暁来に…謝らないと…

礼を言わないと…

少なくとも、あの言葉で救われた。
助けようとは必死になってくれていると

嗚呼…みんなの所に戻って…馬鹿みたいに騒ぎたい

こんな足りない世界から…早く…早くッ…!!


桃百合に、彼が抱きつかれるまで…
あと10秒…



(彼らは必死で助けようとしている)
(彼らも、必死で抗っていた)
(小さな少女が今度は立ち上がった…)

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あきゅろす。
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