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はじめまして、暁来このんです

このんはひたすら稽古をした。
手には血豆ができて、足には痣だらけだ。

河「暁来さん…無理は駄目だよ」
「もういっかい、おねがいします!」

どんなに痛々しくなっても、諦めることができないでいた。

まだ勝てない、とわかっているから。

無茶な練習だとわかっているが、彼に勝つにはこれくらいの練習をしないといけない。
雪がちらつき始めたため、河村がそろそろ本気でストップをかけた。

河「暁来さん、気持ちはわかるけど、そろそろ止めよう。
このままだと日吉君と戦う前に倒れてしまうよ」

このんはまだやりたい気持ちだったが、練習に付き合ってくれる河村の言葉に素直に応じた。
ふらふらと歩き出せば鈍痛が身体に響く。

そういえば、氷帝の彼らはどうなったのだろうとぼんやり考えた。
あくたがわ先輩の気持ちは伝わったのだろうか…と。
その場に日吉がいるならば、彼はどうしてしまうのだろう…と

いろいろ考えていたためか、前をよく見ることができていなかったため曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
こてんっと床に倒れてしまい、立ち上がろうにもうまく力が入らないのかうまく立てない。

?「…暁来さん、大丈夫ですか…?」

相手は恐る恐るといったでも柔らかい声で心配そうな言葉をかけてきた。
彼の声に驚いて顔を上げた。

まぶしい銀色の髪に、悲しげに寄せられた眉、大きな身体の彼は…

「…おーとり…先輩」

あの時拒絶した目は、なかった。

鳳「…暁来さん、すみませんでしたッ…!!
俺…あなたを傷つける言葉を言いましたッ、あなたを傷つけるつもりでしたッ…
言い訳はありません…許されないことをした自覚はあります…!」

本当にすみませんでしたッ!!と頭を下げる彼は、もとに戻ったのだとわかった。
このんは目をぱちくりとさせて、手を上に…鳳の前に出した。

「…おきるの、てつだってほしーの…です。」

立てないの、です…というと鳳は困惑した表情のままこのんをゆっくり起こした。
このんはパタパタと砂を払ってから鳳を見上げる。

「…ボール投げてきたの怖かったです」
「そんざいをひてーされたのかなしかった、です」
ただ無表情でそう言った。
それが事実だから、責められても仕方ないと鳳は思っていた。だが、あまりの感情が欠落した表情で言うのだから彼は今心臓を捕まれた気分だ。

二言、このんが言ってから若干の沈黙ができた。

次開かれる言葉が何なのか、鳳は覚悟を決めている。

自らの否定だとしても…

「…なんにもしてないのに拒絶するひと…きらい


でも、せんぱいはもうわたしを否定しない、です…?」

無表情が崩れ、泣くのを我慢する表情になった。

「また否定するなら、わたしはせんぱいをきらいつづけます」

嫌う人間の側に居続けても、傷つくのは自分だとわかっているから。
このんは桃百合の呪い云々ではなく、鳳自身がどうか尋ねていた。

鳳は目を丸くした後、口を噤み、首を…縦に振った。

鳳「もう、俺は暁来さんを否定しないよ。
絶対に」

もう違わないと、あの時謝ってきた幸村と同じ目をしていた。

このんは、やっと笑った。

「やくそくげんまん、です!」

鳳は決めた。
もう、彼女を傷つけないと…
呪いをかけられる前のライバルが大切にした少女を守ると…









暖かいフロアのソファにに座って2人は話していた。

「おーとり先輩、跡部ぶちょーたちの言葉、とどいたです?」
鳳「…うん。
あんなに必死になって、俺らを戻そうとしてくれてたのに…なんか今はすごく後悔してるよ。
…でも、あの人からの呪い…だっけ?それから抜けれたのは、皮肉にも日吉の言葉だったんだよ…」



――日「何言っているんですか?
テニスなんかより姫華さんを選ぶに決まっているでしょう」




鳳「その日吉が、怖かったんだ。
本当に、日吉じゃなくなったみたいで…
俺らもああなっていたんだって…」

眉を寄せ、泣きそうな表情で語った。
ライバルとして慣れ親しんだ相手が別人のようにおかしくなったことが辛いのだ。

このんも日吉のその発言に何かを堪えるようにギュッと拳を作った。

「…、どれくらいのひとが、テニスだい好きに戻ったの…です?」
鳳「…日吉と財前、忍足謙也さん、桃城に菊丸さん以外、かな
財前と忍足謙也さん、桃城に菊丸さんはなんか…日吉ほどじゃなくて抜け出せないって感じなんだ。
他の四天宝寺の人たちは千歳さんや金色さん、一氏さん、石田さんのおかげで戻った。跡部さんたちのようにやって」

鳳の話から、このんは考える。

合宿は今日を抜いてあと二日…
その時間以内に5人を戻さないと学校生活に支障が出るだろう。

この合宿はレギュラーしかいないのだ。
もし合宿から帰ってきてこのままの5人を他の部員たちが見たらきっと失望する。

…それ以前に…

「…こんなのやだ」
鳳「!、暁来さん…」
「…じぶんかってかもしれない…です。
けど、きっとこのままかえったら家族ほーかい…するです」

自分は日吉の家で世話になっているのだ。
このんと日吉の仲がこのままだと、日吉家が滅茶苦茶になるのは簡単に想像がつく。
大好きな家族がぐちゃぐちゃになるのは、耐えれない。

毎日否定されるのは、辛過ぎる…

「わかしくんにもどってほしーの、です。
あとべぶちょーにげこくじょーするほどテニスがだいすきで、
古武術がつよくて、
あたまたたくけどなでてちょっとわらってくれる…わかしくんにあいたいです」

今のひよしくん、きらい
だから、下剋上…です


にひひ、といたずらっぽく笑った。
まだどこか無理をしているが、鳳はそれに気づかないフリをして微笑んだ。

鳳「日吉に勝つとこ、見せてね」
「あいさーっ」

親指を立てていぇい、と呟く。

ふと、どこからか竜崎先生の呼ぶ声が聞こえる。
おはなし楽しかったです。またです、と手を振れば小走りで声のする方へ走って行った。

少女がいなくなり、鳳は小さく呟いた

鳳「…頑張れ、暁来さん」

どんな結果になるかわからないけれど、銀髪の少年はちいさな栗毛の少女に優しい先になって欲しいと願った。







竜崎先生に呼ばれたのは、そろそろ風呂に入るようにとのことだった。
なかなか帰ってこないこのんを心配していたのだ。

傷や痣だらけで帰ってきたことには少し雷が落ち数分間床に正座で叱られたが、このんの消灯時間が近いためすぐに解放され風呂に入れた。

途中、跡部と先ほど帰ってきたばかりの榊監督と会ったが、寝る時間も近いため明日話そうということになった。

榊グループの合宿所の温泉はここ毎日入っても心地の良いものだった。
傷も癒やされる気分だ。

風呂から上がり、黒ジャージを着て部屋に帰ろうとした時だった。

「!、…」

彼らがいた
ピンク髪の少女を囲む5人…

桃百合は自分の周りに彼女曰わくの「王子様」が少なくなってしまったことに憤慨して、5人に泣きついていた。

不気味な微笑みで桃百合を宥めている日吉に反し、謙也に財前、桃城、菊丸の表情はあまりに無機質な顔…
4人が「どうすればいいのかわからない」と混乱しているのは目に見える。
逃げたくても、逃げられない…蟻地獄に捕まった蟻のように

このんはキュッと下唇を噛み締め、
震える脚に渇を入れて歩み寄った。

スタスタとスリッパが廊下に触れる音をたて、ゆっくり近寄れば、4人が気づく。
目が、僅かにこのんを見た。

日吉以外にはニッと笑ってみせてから、すぐ表情を消して2人…日吉の前に立つ。


「…[日吉若さん]、おはなし…あります」
桃百合「なっ…
姫華からまた奪うのっ!?
いきなり現れたのに、頑張ってる姫華を虐めるの!?」

桃百合が先にこのんに気付いた。
そして再び皆の気を引こうと泣きながら日吉に抱きつく。

が、いくら喚こうとも桃百合にひとつもこのんは目をやらない。

日吉がこちらに気付いてこのんを見下す。
…嫌悪と濁りが混じった目で

日「アンタが姫華先輩を虐める奴か?
何だよ…また先輩を虐めるなら、俺が制裁する
どうせ、先輩の言うように他の先輩たちを誑かして媚び売ってんだろ
汚ねぇ奴…」

吐かれるのは悪意と毒の混じった言葉
だが、このんは身じろぎも目を逸らしたりもしない。

ただジッと日吉の目を見つめる。
そして、ゆっくり口をひらく。

「…[はじめまして]、暁来 このん…です
あなたが、わたしをどうみても…かまわない。
でも、…せんせんふこく…です。」
日「は?お前に構ってる時間はねェよ」
「…あなたに古武術のしあいをもうしこむ…です。
日吉若さんがかてば、わたしはでてく…このしまから
わたしがかったら…
あとべぶちょーさんたちにあやまってください」

全部を…と淡々と告げる。
桃百合はこのんの発言に目を丸くし、そして笑みを浮かべた。

このんがいなくなれば、「王子様」たちが自分のもとに帰ってきてくれると思ったからだ。

桃百合「姫華、若の勝つかっこいいとこみたいなぁ〜
姫華の為に戦ってぇ?」

上目遣いでにっこりと笑ってみせる。
日吉は頬を赤らめ、強く頷いた。

日「勝てば先輩への嫌がらせもなくなる…。
いいぜ、お前なんかが勝てると思わないが」

不敵な笑みを浮かべ、自信満々に言い放つ。
だがこのんは無表情だ。

「…しあいはあしたお昼休み…12時30分に合宿所のうしろ…です。
…おくれたらあなたの負け

………下剋上…ですッ!!」

一度目を閉じて開けばギッと睨みつけ、叫ぶ。
心に溜まった感情を吐き出すように

いきなりの変貌に6人がたじろいだのを見てから、このんは頭を下げて部屋に戻って行った。


たまたまそれをみていた越前に頭を撫でられるまであと5分…


(…おつかれ)
(…あい…、…ぜったいかつです。)

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