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ぴーちゃんはねー

ようやく本題に入り、跡部が腕を組んで口を開く。

跡「今日の夜、榊監督がお戻りになられる。
…さっきの会話は録音しておいたし、今までの乾と柳のデータとともに提出する。
…これからあの女の行動が過激になるはずだ。
暁来、警戒は十分しておけ」
「あい…
……きをつけます、です」

キングの真剣な表情に、小さく頷く。

ふと、何かの視線を感じた。
跡部の後方、小屋の近くでこちらをみる忍足が見えた。

不思議そうに彼を見ていれば、口パクで何か言っている。

「…?(…あ…と…で…?)」

話が終わればこっちにこいと言っているのかもしれない、と忍足にだけ見えるようにピースサインを向ける。

それが見えたのか満足げに笑ってどこかに消えた。

おそらく小屋の後ろの物干場だろう。

大「?暁来さん、ぼーっとしてるけど、大丈夫かい?」

大石が心配そうに顔を覗き込んできた。
ハッとしてコクリと頷いて返す。
そうすれば彼はホッとしたような表情になり、優しく頭を撫でてくれた。

大「なにかあったら相談しなよ。」
「あい
…あとべぶちょー、そろそろ…時間」

チラッとひよこリュックについた時計を見る。

練習開始の時間1分前だ。
近くにいる跡部のジャージをクイッと引っ張る。

跡「あーん?なんだ?」
「練習、かいし1分前…です」
跡「わかった
おい、野郎共…練習再開だッ!」

パチンッと小気味良く音を鳴らす。
このんは、おー…と関心したようにパチパチと手を叩いた。
跡部は得意げな笑みを浮かべれば樺地と共にコートに向かって行く。

このんも空になったボトルやらを回収して小屋に走った。
忍足に呼ばれているから…ということもあるが。

ボトルやらを小屋の台の上に置けば、裏に顔を出す。

氷帝の天才が小さく笑ってこちらを見ていた。

「忍足先輩、なによー…です?」
忍「わざわざスマンなぁ…暁来さん
…立海、元に戻せたんやな…」

彼の目がコートに向く。
が、すぐにこのんに向けられる。

忍「俺は榊監督に頼まれて桃百合の様子を見とる…。
隙があれば岳人やら、謙也たちに声かけてなんとか元に戻そうとするんやけど……俺やアカンのや…」

彼の目は、寂しそうにみえた。
このんは知っている。

彼が一番疑り深いことを。

初日に、忍足は少なからず自分を警戒していた。
いくら日吉の弟子で幼なじみだからと言って、自分たちを乱すことがあるかもしれないと…

だが、このんにこうして弱いところを今見せている…

それはプライドとか関係なく、このんを一人の部員として見ているからだ。

「…おしたり先輩…、


あい…とーぶんほきゅー、なの」

気の抜けた声で少女がパーカーから出したのは塩飴だった。

忍「いや、糖分補給やなくて塩分補給になるやろうがッ!」

ツッコミながらもちゃっかり受け取った。
よく見ると、小さな袋には昆布塩飴と書かれている。

「ナイスツッコミ、です
こんぶアメちゃん…田中ティー(44歳男既婚)オススメ、なの」
忍「……あぁ、…世界史の先生なぁ…」

かなり脱力したのか、忍足は苦笑を漏らす。
それをみてこのんはへにゃりと笑った。

忍足の強張っていた表情が解けたからだ。

「おしたり先輩、
りっかいとひょーてい…どっちが絆つよい、です?」
忍「…贔屓あってもなくても、こっちに決まっとる」

あまり間を置かずに答えてきた。当たり前だ、と自信あり気に

「なら、ぜったいおしたり先輩の声…むかひ先輩たちに届く、です。
りっかいも、絆…つよいから戻ったのです。
いとこさんも…ぜったい」

ギュッとひよこリュックを強く抱きしめて訴えるようにぽつりぽつりと呟いた。

忍足は初めて気付いた。

ひよこリュックの紐に幼い字で「このんへ、若より」と書かれていることに…

このんだって、自分と同じように家族や仲間が変わって不安なのだ。

2つ年下の子に自分が励まされては示しがつかないな…と忍足は小さく苦笑した。

忍「…せやな。
…暁来さん、跡部に夜9時に俺の部屋に来るよう伝えてくれへん?
俺は、まだ榊監督に頼まれてることをやっとるから言いにいけんのんや…」

忍足の頼みに、このんは快く引き受けた。
彼に頭をぺこりと下げてコートへ走っていく。

その後ろ姿を見送ってから、忍足は桃百合のもとへ戻って行った。





跡「あーん?
忍足がそう言ったのか?」

このんは頷いた。
試合を終えた跡部に、頼み通り伝えたのだった。

跡部は顎に手を当て、どこか思案している様子だ。

跡「…わかった、後で連絡を入れておく。
すまねぇな」
「ん、
おやくにたててよかった…です」

このんは頭を撫でられ、いつも通り気の抜けた笑みを浮かべれば金色と一氏に呼ばれ、審判をしに向かっていった。


金色&一氏対仁王&柳の試合が終われば、4人にタオルを差し出した。

「おっつー!」
一「軽ッ!?態度軽過ぎやろッ!」
「おつかれさんま」
一「サンマいらんわッ!!
持ってるもんサンマやなくてアジやし干物どっから出したんやッ…!?」

このんの手にはアジの干物。
少なからずひよこリュックを開けるしぐさはなかった。

ひらひらとアジの干物を振るこのんを仁王が面白そうに見る。

仁「それ、イタズラグッズの干物じゃろ?
たしかボールペンだったナリ」

アジの顔をあければ本当にボールペンのペン先が出てきた。
はっきり言って

柳「…書き難いだろう」
「りょっくんからもらった…です。
ほねだけにしたら、書ける…の」
一「無駄な機能やな」
仁「そのりょっくんって言うやつは友達か?」

ケンゾーくん、こっちゃんに続いて新たに出てきた名前に、柳もノートを開く。
このんは首をふるふると横に振る。

「りょっくんは、いとこ…です。」

従兄弟発言に、柳のペンを動かす手が止まった。

柳「…従兄弟…?いくつ上だ?」

そう尋ねられ、指でゆっくり歳を数えている。
時折、えっと…えっと…と呟きながら。

「あ…、私より3つ上…なの
10月がおたんじょうびだった…から」
金「暁来ちゃんいくつ?」
「12さい…です」
柳「…15歳か…我々と同じ学年か、はたまた高校生かだな。」

必要なのだろうか…とこのんは不思議そうな表情で、ノートに記入していく柳を見ていた。

「…りょっくんは中学3ねんせー…です」

海のちかくのがっこーなのー、と間延びした声とのんびりした表情で答える。
自分の従兄弟を話す姿はものすごく嬉しそうだ。

花が舞っているようなほんわかぶりだ。

一「で、その毎回背負ってるひよこリュックはその従兄弟からなんか?」

一氏はこのんの背の中学生にしては少し幼稚なひよこリュックを指差す。
このんはきょとんとすればリュックを下ろし、肩紐を見せた。

正確に言えば、『このんへ、若より』の文字を…

幸「…日吉君からのプレゼントなんだね」

試合を終えた幸村が、柔らかく笑みを浮かべ、小さな少女の頭をなでた。

このんはコクコクと頷いて笑った。

「ぴーちゃんはね、わかしくんがおたんじょーびにくれたの…ちっちゃい時に」

たからもの!とひよこリュックを抱きしめる姿は、心から日吉を大切な存在と思っている証だった。

仁「ぴーちゃん大事にしちょるんじゃな…
ところどころ縫い目があるぜよ」
「あい…7歳のとき、貰った…です。
毎日いっしょだと、ぴーちゃんちょっとボロボロになったのです…」

ひよこリュックの少しいびつな縫い目をなぞった。

ふと、あ…とひよこリュックについている時計をみて呟いた。

「ドリンク、とってきます…です」

休憩時間が近いことに気づいて素早い動きで小屋に戻っていった。

一「マイペース過ぎるやろ…」
金「まぁ…可愛らしいやないの!
ほんま、日吉くんが好きなんやなぁ〜」
柳「フッ…
…精市、暁来がドリンクを作り上げるまで打ち合いをしないか?」
幸「ふふ、喜んで
仁王、サボるなよ」
仁「…ピヨ」

それぞれが和やかな表情でコートに入っていった。

このんがドリンクを作り終えて持ってくるまであと7分…


(ぴーちゃんはたいせつなの)
(だからずっ…といっしょ)

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あきゅろす。
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