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なかないよ

昼食が終わればこのんはキュッとひよこリュックを抱きしめながら合宿初日に跡部からもらった資料を見ていた。

ふと、携帯電話が光った。

竜崎先生がいないから画面を見て名前を確認し、すぐに出た。

「もしもし…あっくん…?」

受話器の先で、電話をかけてきた相手が小さく笑った声が聞こえた。

?『うん。
どう?初めての合宿サポートは』
「たのしーの。
ちょっと…大変だけど」
?『…ちょっと…の後に間が空くのは何かあったんだね…
…このん、沢山泣いた?』

何かあったかは聞かず、あっくんと呼ばれた者は尋ねた。

「……うん。
でも、もーなかない…
下剋上、するの」

はにかんで呟くこのん。
また電話の奥で笑う声が聞こえる。
どこか楽しそうに。

?『さすがは氷帝の日吉の弟子だね。
下剋上の相手は…師匠?』
「うん。せーがくの河村先輩に、手伝ってもらうの…
河村先輩、しってる…?」
?『あ、うん。知ってるよ。
試合はしたことないけど、うちのマネージャー曰わく空手やってたって言ってたし。
……あんまり無茶しないようにね。
アイツも心配するからさ』
「…しんぱいしょー…だよ。
…でも、気をつけるね…」

コンコンっとドアをノックする音がした。

幸「暁来さん、入っていいかな?」
「あ、あい。」
?『…立海の幸村?』
「うん…、仲良しなの」
?『このん…人見知りじゃなかったっけ?』
「ひとみしり…。
だけど…幸村ぶちょーやさしー」
?『ならいいや。
合宿終わったらまた会いにきなよ。
じゃあね』

電話が切れる。
幸村は部屋に入ってくれば尋ねた

幸「敬語じゃなかったみたいだけど…仲のいいひと?」

その質問に、このんはへにゃりと笑って縦に首を振って肯定する。
どこかほかほかしたような笑顔だ。

「あいっ!いとこ…です!」
幸「従兄弟…?従兄弟いたんだ…」
「おかーさんの、おにーちゃんのむすこさん…です。
双子さん…なの」

ひさしぶりにおはなしした、です…と楽しそうに言う姿に幸村は柔らかい笑みを浮かべる。

幸「暁来さんはその従兄弟のひとたちも大好きなんだね…。
羨ましいな…そのひとたちが」
「?うらやましー…です?」

きょとんとした顔で見上げるこのんにクスッと笑う。

幸「うん…
暁来さんと仲良しでいいなって。」

幸村は柔らかく目を細め頷くとそう言った。
彼の言葉に、きょとんとした顔のままだったが、にへっと破顔一笑する。

「トランプしたり、一緒にごはん食べた…です。だから、幸村ぶちょーともー仲良し…なのです!」

今度は幸村がきょとんとする番だった。
それから、少女につられて年相応に笑う。

幸「…ふふ、ありがとう
なら、滝みたいにこのんちゃん、って呼んでもいいかな?
俺のことも好きに呼んでいいから」
「あい!
えっと…えっと……
………ゆっきー先輩っ!」
幸「え…あえて名字?
…まぁ…いっか
改めて、よろしくねこのんちゃん」
「あいっ!ゆっきー先輩」

2人は顔を見合わせて笑い合った。


練習が始まり、このんはいつもどおりドリンクなどを用意していく。
相変わらず、一応マネージャーである桃百合は遅れている。

遅れを取り戻すために厳しく練習を行っている立海メンバーが窓から見え、このんは思わず笑った。

早くみんながテニスしてるところをみたい、改めてそう強く感じた。

ふと、ドアが開いた。
長身でほとんど跡部の側にいる樺地だった。

樺「…暁来さん…また通信機を使う…と跡部さんが…言っていました…」
「つーしんき…
あいっわかった…です。
かばじ先輩、おつかれさま…なのです」
樺「ウス…
桃百合さんが…何か言ってきたら、通信機をつけたままに…していてください…。」

それだけ言い残し、樺地は帰っていった。
言い残した言葉にこのんは少しきょとんとしたが、日吉たちを元に戻す為に必要なことなのだと気付いた。

時計を確認し、ひよこリュックにドリンクやタオルを詰め込み、小屋から出る。

その時、来たばかりであろう桃百合と目が合う。
ヒドく顔を歪め、ズカズカと近寄ってくる。

桃百合「っ…アンタなんかに姫華の王子様は渡さないんだからッ!!」
「…おーじさま…?」


王子様という単語に小さく首を傾げた。

桃百合「そうよッ!
みーんな姫華の王子様なのよッ!!
アンタみたいなチビで生意気で泣き虫な役立たずなんかが近付いたらいけないのッ!!」

喚き叫ぶ相手に、このんはひよこリュックを背負い直してジッと見た。
わからない、といったふうに。

桃百合「王子様たちはアンタに惑わされているんだわ!きっとそうよッ!!
姫華はたくさんたくさん頑張ったんだから愛されて当然なのにッ…
アンタが泣き脅しなんかしてるから仕方なく、仕方なく接してあげてるのよ彼らはッ…!」

睨みつけてくる桃百合の言葉を黙ってきいていたが、口を開いた。

「…たくさん泣いたよ…わたし
だから、みんなこまらせた…やさしくしてくれた、です。」
桃百合「何よ…自覚してるじゃない…
やっぱり計画的ねッ!!」
「…でもね、もーなかないよ
ひよしくんたち、もどすもん…
またテニスしてるの、みたいもん。…みんなが…がんばってるの見たいの…」

小さく笑って、それから真っ直ぐと表情をかえた。


「宣戦布告、です」


時計を確認してから、固まった桃百合を放置し、休憩にはいるであろう部員たちのもとへ走った。
カチリ、と通信機のスイッチを消して…




(side?)
暁来と姫華の会話を偶然聞いてしまった。

姫華が叫びながら暁来に詰め寄るのを…
…本当は今日の朝も聞いた。

お姫様、モブ、王子様、姫華のもの…その意味のわからない単語を言う姫華に、嫌気がさす。

だが、何故か逃れることができない。

暁来は全くと言っていいほど悪くはない。
俺たちに嘘をつく姫華…いや…桃百合が悪いんだ。

なのに…
なのに何故俺はすぐ忘れる…?

まるで、桃百合の呪縛にかかったかのようだ…。

こんな女から離れたい…
離れなくてはいけない…


越「部長、大丈夫ッスか?
…もとに戻ったら外周50周ッスね」
大「手塚、早くこいよ!」
海「フシュゥゥ…ラリー手伝ってもらわないと困るッス」
不「キミはこんなところで終わるようなやつじゃないだろう?」

嗚呼…そうだな…
俺は、こんなことに負ける訳にいかない。


手「すまなかったな…越前、大石、海堂、不二…」


小さな少女が頑張ろうとするのに、俺は立ち止まってはいけないんだ。
…仲間のおかげでやっと歩き出せた…


(手塚side end)


このんがつけっぱなしにしていた通信機により、跡部と幸村のもっている通信機で休憩に入っていた部員たちには2人の会話が丸聞こえだった。

宍「…激ダサだぜ…」
丸「こんな奴の呪縛にかかってたなんてダサいぜぃ…」

宍戸と丸井が顔をしかめる。
2人だけではない、その場のほとんどが顔を歪めた。

このんはひよこリュックからドリンクを取り出しながらぼんやりとしている。

「…あい、ゆっきー先輩」
幸「あ、ありがとねこのんちゃん」
「どーいたしました」

一「ちょいまてや。
なんで暁来と幸村親しげやねん…
ついでにどーいたしましたって何で過去形やねんッ!」

場の空気に合わずほのぼのとドリンクの受け渡しをしている2人に一氏がツッコミをいれた。

幸「「ん…?/う…?」」

2人して首を傾げる。

切「そうっスよ!
ちびっ子といつ仲良くなったんスか!」
不「羨ましいなぁ…
ねぇ、越前」
越「…別に」

このんと幸村は顔を見合わせてから小さく笑った。

幸「成り行きだよ。
ねー、このんちゃん」
「ねー、
なりゆきさん…です」
桑「発音おかしくなって人名になってんぞ」
宍「誰だよ、なりゆきさんって」
「おとーさん」
宍「マジか」
「…じょーだん、です」
イタズラっぽく笑うこのんのせいで良くも悪くも緊迫した空気がなくなった。

不「じゃあ、僕も成り行きにまかせてこのんちゃんって呼ぶね。」

クスッと柔らかく口に弧を描き笑う。
このんはへにゃりと破顔一笑する。

「あい、ならしゅー先輩呼ぶ…です」
不「周助だからしゅー先輩?」
「あい!」

だめです?と小さく首を傾げる姿に、不二は微笑んで首を横に振る。

不「このんちゃんの呼びやすい呼び方でいいよ。」

その言葉にまたへにゃりと笑った。
不意に真田が咳払いをするのが聞こえる。

真「…本題に戻っていいか?」

ようやく脱線した話が元に戻るまであと3秒





(まけないもん)
(みんなで笑っていたいから)

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あきゅろす。
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