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きずなはつよいの

このんが小屋の中でタオルを干していた時、外から騒がしい声が聞こえてきた。

どうやら、自分が桃百合の呪縛にかかっている者たち分のドリンクやタオルを準備していないことを気付いたみたいだ。

自分たちにないのか

何でアイツ等にはあるのか


だがこのんは淡々と洗い、片付けていく。
時計を確認し、次の準備をする。

桃百合「ご、ごめんねぇ〜!すぐ作ってくるからぁっ!!」

桃百合が近付いてくる。
ドアがバタンと開き、鬼の形相のような表情になっていた。

が、無視した。

桃百合「ちょっとぉっ!!何であんた姫華の為にドリンクとかタオル準備してないのよ!!
役立たず!姫華の為に働きなさいよ!!」

やはり無視する。

ギャーギャー騒ぐ桃百合を無視し続けていると、オサムちゃんが入ってきた。

渡「暁来さーん、赤也君がケガしたみたいやから、行ってくれへん?」
「あ、…はい。
いってくる…です」

タオルを畳むのを途中で止め、救急箱を持って桃百合を横切って小屋を出て行った。

全く応えず、全く自分を見ないこのん…
それには桃百合は憤慨していた

桃百合「なっ…何なのよっ!!
ドリンクもタオルも用意しないで仕事放棄なんて……!!
っ…オサムちゃん!なんであの子を怒らないのぉ!?」

キッと見上げれば、そこにいたのはオサムちゃんだが、何かが違った。
先ほどまでへらへらと笑っていたのに…

桃百合「!、オサム…ちゃん…?」
渡「あんなぁ…
自分仕事しとるんか?」

彼の目は、冷たかった。
拒絶の目だった…桃百合がわかるほどの

桃百合「えっ……し、してるよぉ〜…!
オサムちゃん来たばっかりだからぁ、わかんないんだよぉ!」

なんとか自分を好きになって貰おうと桃百合はキャハッと(自分にとっては)可愛らしく笑った。

が、変わらなかった。
むしろもっと冷たくなっている。

渡「言ったら良くないやろうけど…
自分、全く仕事やっとらんわ。練習に遅れても謝りもせんで平然とおれるなんてなぁ…マネージャーとして最悪やで。」

固まった桃百合に背を向け、オサムちゃんは小屋を出て行った。

硬直が解け、身体が震える。

桃百合「なんで…なんでなんでなんでッ!!
なんでオサムちゃんは姫華を冷たい目で見るのッ!?
なんであんなチビ女に味方するのよッ!!!
お姫様は姫華でしょッ…!?
なんであんなモブにつくの!?王子様はぜぇんぶ姫華のものでしょ!?
なんでよッ!!!」

桃百合は怒りをぶつけるように叫んだ。

誰かが聞いているかなど、確認せずに……



?「…姫華…?」






「きりはら先輩…
お怪我…だいじょーぶ、です?」

テコテコと切原と海堂に近寄った。
切原の足が少し腫れている。

切「大丈夫だって!ちょっと捻っただけで大袈裟なんだよ」

いつも通りに笑うが、このんは患部に軽く触れた。

切「いッ…!?」
「…ちりょー、しましょ」

手を離し、ジッと見る。

切「だーかーらー!大丈夫だっつーの」
「……ちりょー拒否したらつんつんする、です」
切「ゲッ………わぁったよ」
柳「……意外と強引なんだな」乾「データだ」

またつつこうとすると渋々頷いた。
このんの意外な一面にデータマン2人はノートに書き記していた。

手早く手当てをし、安静を義務付ければ救急箱を片付けていた。

跡「さっきはあの雌猫相手によく出来たな。
まるで空気扱いみてぇによ」

跡部はどこか愉快そうに笑う。
このんはきょとんとしたが、困ったように笑った。

「あー……あい
ちょっと、たいへんだったです…けど、ひよしくんが昔やっていたのの真似…です。」
越「日吉さんの?」
「ひよしくんは、嫌いなひととか…にがてなひと…ずーと無視、する
そのまねっこ、なの…」

へにゃりと笑うこのんの頭を、不二は笑ってなでる。
日吉がああなってしまっても、このんは『師匠兼幼なじみ兼兄貴分』な日吉を尊敬していた。

宍「お前ってほんっとわかしっ子だよなぁ…すげえくらいに」

宍戸は呆れたようなホットしたような顔で言う。
えへっと笑い返されたが。

滝「でも、何かされたら絶対俺たちに言ってね。
きっと、続けたらあの女は何かするだろうし…」

目線を合わせるように屈んで頭を撫でる。
このんは軽く表情を締める。十分理解しているのだろう。

「油断大敵、だから…ですな。
きをつけるです…」
金「でも、あまり気を張らんでも大丈夫やでぇ。
ウチらみんな、暁来ちゃんが大好きやからなぁ…!」

柔らかい笑みを浮かべて言う金色に、ちょっと照れくさそうにはにかんだ。

休憩終了が近くなったのに気づき、小屋に戻ることにした。
恐らくもう桃百合は自分の虜となった王子様のもとに帰っているだろう。

彼ら分のドリンクをどうしたのかも気になる。

小屋に入れば、手の付けられていないカラのボトルと封を切っていないドリンクのパウダーがあった。
どうやら作ってはいないようだ。

ガヤガヤと声が聞こえたことで王子様な彼らに嘘を言ったことがわかった。

流石のみにまむ少女も桃百合に呆れ、頑張る彼ら分のドリンクを作り出した。

ガチャとドアが開いた。
先頭には真田。
次に白石と続いて入ってくる。
他の者も後ろにいて、桃百合を守るように囲んでいるのが見えた。

真「おい
貴様、姫華がドリンクを用意しようとしたのを邪魔した挙げ句、暴言を吐いたそうだな。」

怒りの籠もった表情でこのんを見る真田に、手を止めて真っ正面を向く。

もう怖がったりはしなかった。

「どーして、『はじめまして』の人に怒られないとダメ、です?
わたしは、今日は桃百合さんに…一言も、口をきいてないの…ですよ」
白「せやけどなぁ…、それは嘘やろ?
実際、姫華は傷ついてるんやで…
しかも、俺らのドリンクはなくて柳君たちにはある…おかしゅうないやろか?」

厳しい目で見てくる。
このんは真田から白石に目を向けるが、直ぐに戻す。

「わたしはウソ、言ってない…です。しょーこ、あるです。
それに…ドリンクとかはがんばってる人に作った、です。」
遠「なんやて?ワイら頑張っとるやないかッ!!」
幸「遠山君の言うとおりだ。
キミは何をみていたんだい?」

このんの発言に、桃百合派の部員たちは苛立ちを見せた。

が、このんは遠山の言葉に頷いたりしない。
不意にひよこリュックを肩から下ろし、一冊のノートを取り出した。

パラッと栞のされたページを開いて直ぐに読み上げた。

「『合宿4日目
10:37と16秒 桃百合についている者たちは2時間7分と16秒遅刻し、やっとやってきた。
俺たちに何の謝罪もなく、反省もない。

11:08と39秒 あちらはやっとテニスを始めたようだが、ランニング・筋トレ・ストレッチ・素振りなどを全く行っていない。
常に桃百合に芸を見せるかのようなプレーを行っているだけだ。
これがお前たちのしたかったテニスなのか?』」


空気が固まった。
このんはノートを近くにいた桑原に渡した。
桑原はハッとし、そのページに記された文字を目でおった。

桑原「こ…これ…
柳のノートじゃねぇかッ!!
なんでお前が……」

このんが読み上げたたのは、休憩終了直前に柳に渡された彼のノートだった。

そこにはびっしりと文字、事細かな絵、表が書かれている。
すべて彼の筆跡だ。
立海の彼らなら馴染みがあり、見間違えることのない文字…

幸「ッ!!見せろ…!」

幸村は桑原からノートを受け取り、穴が空くほど読む。

彼の手は、震えていた。

幸「ッ………、…」

このんは感じ取って。
立海の彼らはもとに戻ったと。

何故なら、彼らの目から虚ろがなくなっていたからだ。


謙「せッ…せやけど、それ全部嘘やろ?
柳の文字に真似てやればできるもんやろうし…」
仁「そいつはどうじゃろうかのぅ…」

桃百合の近くにいた仁王は小屋に入ってきた。

桃百合「ま…雅治…?」

困惑したように桃百合が仁王の手を掴んだ。
彼はダルそうに振り向いた。
青い鋭い目が、何時になく冷めていて、口角が上がっている。

桃百合は小さく悲鳴を上げ、思わず手を離した。

彼の表情は、完全な拒絶だった。
恐ろしいほどに
自分にみせていた甘い言葉と表情は、全く存在しない。

手を離された仁王は無表情になり、このんに歩み寄った。
無表情からどこかいつものような人を小馬鹿にするような笑みになる。

仁「どうじゃ?
柳は気付いたんじゃろう」

彼の言葉に、小さく頷いた。

「でももとどーりにしてもらったの…です。」
仁「おーおー、流石は参謀ぜよ
末恐ろしいダニ」

ククッと喉で笑えば、幸村たちを見る。
彼らの表情は、混乱・反省・後悔が混ざりに混ざったものだった。
仁王は肩をすくめ、ポンポンと真田の肩を叩く。

真「…!…、仁王は…わかっていたのか…?」
仁「まぁのぅ…
じゃが、こうせんと元に戻らんほど呪縛は強かったナリ。」
真「………否定はせん」

立海メンバーはこのんに視線を向ける。
彼女に酷くあたってしまったと。
だが、みにまむ少女はヘニャリと笑った。

「やなぎ先輩たち、まってる…ですよ。」

彼らは目を見開くが、直ぐに笑い走って向かった。
大切な仲間のもとへ……

桃百合「えッ…
精市、弦一郎、ブンちゃん、ジャッカルなんで…!?」
仁「ピヨッ」

してやったりと悪どい笑みを浮かべれば彼らの後ろを追った。

空気と化していた桃百合派の彼らにも、違和感が生まれてきていた。
それでもなお、離れることができなかった……


このんは走り去った彼らを見送っていたが、真っ直ぐ彼女を見た。

「よーじ、ないなら出て…です。
わたしは、がんばるひとたちにドリンクをつくりたいの…ですよ」


そう言えば、桃百合は顔を真っ赤にし、苛立ちを露わにしながら小屋から出て行った。

日「姫華っ!」
向「待てよッ…!!」

まだ戻っていない者達はまるで彼女に引かれるように追いかけて行った。

誰かが、このんに一瞬振り向いた気がした。

このんがドリンク作りを再開するまであと5秒

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