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まけないもん

次の日の朝
このんはいつも通りの朝に起き、稽古をしていた。

これは師匠との約束だ。
朝稽古はひとりでも必ずすることが、だ。

やはり日吉は現れなかったが、昨日の朝のように待ったりはしない。
ひたすら稽古に励む。

皆が起きる30分前にはシャワーを浴び、パーカーに着替えて部屋でのんびりする。

朝食も竜崎先生とだ。
違うのは、オサムちゃんも一緒なことだ。

渡「へぇ、暁来さんは氷帝の日吉君の弟子なんか
小さいのによぉやるなぁ…」
「身長ちっちゃくても、がんばれるです。
でも、もっと身長あったら…やりやすいと思う、です。」

生ハムサンドイッチを飲み込んでからそう答える。
やはり今日も生ハムが多い…

竜「なぁに、スポーツは身長じゃないさ。
それにこれからが伸び盛りだからねぇ、子供は」

お茶を啜りながら柔らかい笑みを浮かべて言われた。

まだ伸びると言われ、嬉しそうに笑う。
だがオサムちゃんはどこか残念そうな表情を作った。

渡「でもなぁ…暁来さんはこれくらいがちょうどえぇと思うんやけどなぁ…」
「?ちょうどいい…です?」
渡「撫でやすくてちょうどえぇで!」

にこやかに笑い、クシャクシャとこのんの頭を撫でる。

おかげで髪がボサボサになったが…

竜「おやおや、渡邊先生女の髪をボサボサにしてはいけませんよ。
って直さないのかい?」

なかなか髪を直そうとしないこのんに竜崎先生は呆れたような表情になった。

しばらく何か考えていたのかその言葉にハッとして手櫛で直し始めた。

だがうまくできないようだ。
今までボサボサにされたら日吉に直してもらっていたからだった。

苦戦していると集合時間15分前になった。

仕方ないとこのんはそのまま向かうことにした。

廊下を歩いていると、ある部屋から仁王が出てきた。

そういえば…とこのんは思った。
仁王はどっちなのかわからない者の一人だった。
桃百合の近くにいるが、あまり絡んでいないしこっちに来たりもしない。

仁王をのけてあと4人も同じ感じの部員はいた。
芥川、忍足侑士、石田、千歳だ。

芥川はどこかで寝ているのかあまりみないし、千歳にいたってはどこかにふらついているみたいだ。

あとの2人は仁王と同じだった。

このんが仁王の前を通り過ぎようとした時、何かが頭に触れた。

たどってみれば仁王がこちらを見ず、このんの頭を…というか髪を撫でていた。

「…え…」
仁「髪、ボサボサナリ。
少しは整えんしゃい。」

そう言えばサラサラと手櫛で綺麗に髪をといた。

そして、手が離れた瞬間に仁王の手がこのんのポケットに入り、それから彼はどこかに行った。

仁王がいなくなり、ぽかんとしていたがすぐにポケットに触れた。

何かがカサリと音がした。
手を入れてそれを手に取れば、折り紙の鶴だった。
かなりの出来の、だ。

「…つる……」

よくわからないが、彼が普通に話しかけてきたのは、桃百合の呪縛にかかっていないということなのだろう。

このんは頬を緩ませ、走ってコートに向かった。



コートには柳たちがいた。
昨日戻った者たちも一緒なようだ。

柳「思ったより遅かったな」
「オサムちゃんにボサボサされた…です」
跡「で、戻していたのに時間がかかったってとこか…」
「……んーん、自分で直せなかったです…。」

柳生「では、どうやって直したのですか?」

柳生がどこか不思議そうに尋ねた。
他の者たちも不思議そうな顔をしている。

「…におー先輩が、直してくれた…です。」

へにゃりと笑う。
だが、その言葉は衝撃的だったみたいだ。

切「仁王先輩がっ!?
あの人あの女に呪われてたんじゃねーのかよッ!?」
「…フツーににおー先輩でした…。
鶴もらったです…」

ほら、とポケットから仁王に貰った鶴を見せた。
すると、柳が歩み寄ってきた。

柳「……暁来、その鶴、少しバラして構わないか?」

が、本人に眉を下げられた。
語弊があったようだと思い、言い直す。

柳「少し言い方が悪かったな…
仁王がただ単に折り紙を渡すハズがない。おそらく暁来に渡したそれは俺たちへの手紙だ。
見終えれば元に戻そう。」
「…なるほど…です。
はい、どーぞ」

鶴を差し出せば、柳は簡単にただの折り紙に戻した。

やはり、柳の考えは当たっていたらしく、文字が書かれていた。
しかも二枚重ねられて鶴は折られていたようだ。

大「何が書いてあるんだい?」

大石が真剣そうに聞く。
柳は少し黙っていたが、ノートに書いていく。そして、元の鶴に戻した。

柳「もう練習が始まる。
昼休みの会議で伝えよう。」

戻した鶴を返してきたため受け取る。
本当に綺麗に元に戻っていた。

「つるもどった!」
柳「この柳蓮二、これくらいどうということではない」

嬉しそうなこのんに得意げに言う。
このんは大事にポケットに折りたたんだ。

今日はオサムちゃんが見てくれるらしく、ベンチに座っていた。
桃百合たちが現れるまで急いでドリンクを準備する。

が、全員分ではない。

こちら側用だ。
タオルも畳んであるのはこちら側分だけにしている。

氷帝学園女子テニス部マネージャー方式をやってみることにしたのだ。

氷帝の女テニマネージャーは一年、二年、三年とサポートするテニス部のグループがある。

マネージャーは3人の為、それぞれがそれぞれを担当するのだ。
もし誰かが仕事をしなければ選手たちに迷惑がかかってしまうが、他のマネージャーは手伝ったりはしない。

マネージャーはマネージャーらしい仕事をしなくてはならないからだ。

寝る前に宇治宮にいろいろ相談し、その方法をやってみたらどうかとアドバイスされたのだった。
練習を真面目にしない、マネージャー業をしっかりとやらない…そんな者たちの為に用意をするのは無意味だ。

不二や越前にそのことを言えば「それをしたらいい」とあっさり答えてくれた。

人数分のドリンクやタオルをカートに乗せ、持っていく。

人数が増えて、活気が出てきた。
オサムちゃんがいるおかげというのもあるだろう。

ドリンクやタオルをオサムちゃんの隣に置いていく。

「あい…、オサムちゃんはコーヒー…です」
渡「おぉっ!暁来さんおおきに!!」

湯気のたつコーヒーの入ったマグカップを渡す。
マグカップの柄はデフォルメなシロヘビだった。

渡「ほんま寒いなぁ…
にしても、アイツら話の通り遅いわ……」

柔らかい表情が曇った。

渡「…あ、せや暁来さんに1コケシやろう!」

曇りは消え、気さくな表情でどこからかコケシを取り出し、差し出してきた。
このんは首を傾げたが、受け取る。

気に入ったのかしばらくパーカーのフードにコケシに入っていて、宍戸と一氏に突っ込まれたのは数時間後の話である。


ランニングを終えた彼らはタオルなどを取りに来る。
雪が降り始めたがどこか暑そうだ。

「…おっつー…」
一「テンション低ッ!ついでに軽いノリやなぁ!!」
「走ったあとなのにツッコミできる…ですね」
渡「よっモノマネ王子!」

パチパチとオサムちゃんと共に賞賛の拍手を贈る。

一「いやぁ〜…ってモノマネ王子関係あらへんやろッ…!!」
切「…いつまで続くんスか…
てか、ストレッチ入りますよ」

恐らく誰かが止めに入らなければ止まらであろうボケとツッコミの応酬に終止符を打った切原であった。

一氏はそう言われて金色のもとへ猛ダッシュした。

一「小春ぅぅぅううッ!!!!!」
小「バンダナくぅん☆一緒にストレッチやらへん?
アタシの身体存分に触ってぇ〜」
一「浮気かっ!?殺すど!」
海「だ、誰が触るかっ!!」

「…にぎやか」

このんはヘニャリと笑った。
変わってしまってたった2日しか経っていないのに、どこか懐かしく感じる。

ストレッチがやっと始まった時だった…

桃百合「キャアッ!寒ーいッ!」
丸「雪降ってんなぁ…
うわっ、姫華の手冷た過ぎるぜぃ!」
桃「あーッ!!丸井さん何姫華先輩の手触ってんスかッ!?」

ぎゃあぎゃあと騒がしく桃百合ご一行が来た。

このんは静かに見つめ、ポツリと呟く。

「…がんばらない人なんかにまけない…まけないもん」

それは、幼なじみのことも入る。
『負けない』、と…


ドリンクを配り終え、休憩が終われば小屋に戻った。

日吉に目を向けることなく…

不「暁来さん、どこか変わったね…」
滝「変わらなきゃダメだって思うんだろう
…俺はこのんちゃんにバカたちからの被害がないようにしないと」
跡「まずは、アイツらに宣戦布告といくか」
越「まぁ…どちらかというとあのピンク頭にだけど…」

桃百合御一行が自分たちのドリンクなどがないことに気付くまであと5分


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