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しんじてたのに…

また練習が再開する。
やはり桃百合を取り囲む部員たちは来るのが遅かったが…。

越前がこちらに来た為乾たちの少士気は少しだが上がる。

越前の言った通り、桃百合がこのんの悪口を言った為か、美形たちに囲まれて嬉しそうに笑う少女を少し遠くから見つめる者が何人かいた。

一氏、宍戸、跡部、柳生、切原、大石、海堂、不二だ。

どこか複雑そうに見ている。
『何かが違う』と…感じ始めていた。

―アイツらはあんな奴らだったか…?

―姫華のことが好きなのか…?

―そもそも姫華と呼んでいたか…?

―俺たちは……
何をしているんだ…?

いくつもの疑問が湧き出ても、あの少女から抜け出せない…
それが新たにギクシャクとした空気を生み出していた。

越「…なんか、迷ってるんスかね…?」
乾「結局、テニスバカの集まりだからな…
…俺たちは、また皆でテニスが出きるようにするだけだ…。
この合宿はあと4日しかない。」

さらに遠くのコートから練習しながら観察していた残りの部員たちは呟いた。
乾の言葉に、改めて表情が引き締まる。

金「やっぱり、いい思い出にしたいしなぁ〜…
隙アリっ!」
柳「ストレートと見せかけてネットギリギリの確率93%
……ライバルもいなくては意味がないからな…仲間だけが元に戻っても」
「……」

このんはドリンクをテントに置きながら小さく息を吐き、空を見上げた。
真上の空はどんよりと雲に覆われているが、遠くの空は青空を覗かせている。

「……きっと、たいじょーぶ…。」

自分に言い聞かすように呟き、テントを離れようとした時だった…

このんは何かに気づき、反射的にしゃがんだ。

…並べておいたドリンクボトルが…いきなり倒れたのだ。

『何か』が当たって。

?「あ…スミマセン…、つい加減を間違えて…」

いつも柔らかく爽やかな声は、どこか冷たく鋭い刃となっていた。
このんはしゃがんだまま彼に顔を向けた。
そして、目を丸くした。

「……、おーとり…せんぱ、い…?」

目の前にいる鳳に昨日までの日吉とこのんを見る温かい表情はなく、どこか邪魔なモノを見るような表情だった。

鳳「キミ…昨日まで『いなった』よね…
なんで『姫華先輩が』作ったドリンクや洗ったタオルを我が物顔で持ってきてるのかな…?
しかも、この島関係者以外立ち入り禁止なの知ってるよね…?」

まるで、このんが今日突然現れたかのような言い方だった。
このんはいきなりのことに恐怖を抱いた。
鳳が怖い訳ではない。
『存在を忘れられた』ことが、怖いのだ。

「っ…わたし…いましたっ…!
おとといから…合宿の最初から、いるです…!!」

何人かに忘れられていると越前に聞いたが、実感すれば更に悲しく、怖い。

鳳「何言ってるのかな…
合宿の最初からいたのは姫華先輩だけだよ。
嘘が下手だね…
さっさと出て行っ 滝「鳳、それ以上口にするな…!」!滝さん…?」

滝がこのんを庇うように2人の間に入った。
彼は目を細め、鳳を睨むように見た。
それからそっと後ろで身体を強ばらせた少女の頭を撫でた。

滝「…大丈夫だよ、このんちゃん…」

落ち着かせるように、柔らかく微笑む。
このんは強張った身体から力を少し抜いた。
泣かないようにきゅっと下唇を噛む。

「滝しゃん…ごめんな、さい…」
滝「大丈夫、大丈夫だよ…。」
鳳「滝先輩っ…なんでそんなやつを庇うんですかっ!?
いきなり現れて姫華先輩を貶めようとしている奴なんですよ!!?」

ワケがわからないといった表情で鳳は滝を諭そうとする。
が、滝は更に冷たい視線を向けるだけだった。

幸「滝、鳳の言うとおりだよ…。
その子は今日までこの場所にいなかったじゃないか。」

このんを一番と言ってイイほど可愛いがっていた幸村も、鳳に賛同した。
滝達や困惑している者以外のほとんどが頷いた。

向「そうだって!
クソクソッミーハー!!姫華が頑張ってくれてるのに何しやがるんだよっ!?」
財「せっかくの合宿が台無しッスわ…
なんやねん…このチビ」
桃「さっさといなくなれよっ!
邪魔ったらありゃしねーなぁ、ありゃしねーよ」

このんはガタガタと震えていた。
「いやだいやだ」と呟きながら自分自身を抱きしめる。

滝「皆止めろッ…!
このんちゃんは最初からいた!!
データマンの2人や先生方も知っているし、ちゃんとサポートしてくれている…!!」

滝は見た。このんを責める彼らの後ろの方で少女にほくそ笑んでいる桃百合を…
ギリッ…と歯を噛み締める。
なんとかできない自分の苛立ちと、辛い目に合っているこのんを嘲笑う桃百合に対する憎しみで…

ふと、新たな影がかかった。
怯えた目でこのんが見上げれば、そこには日吉がいた。

日「……さっさと失せろ、ミーハー女」


「―ッわ…かし…く 日「名前で呼ぶな。目障りなんだよ」ッ…、…」

このんは丸い目を見開き、そのまま涙を流した。
顔色が、明らかに悪くなっていた。

越「……サイテーじゃん…アンタ」

滝とこのんに近寄り、越前は吐き捨てるように呟き、日吉を睨みつけた。
それは、今までにない鋭く冷たい視線だった。

迷っていた者たちも、桃百合の呪縛から解き放たれたかのように一斉に小さな少女を責める者たちに非難の眼差しを向ける。





うそつき…






少女は、ポツリと呟いた。
皆が、このんに目を向けた。
少女は、涙を拭うことなく、日吉を睨みつけた。
日「何を言って…「わかしくんの嘘吐き。嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐きッ……!!
守って言ったッ…!しんじたのに……信じてたのにッ…!!」なッ…」

悲しみが爆発したのか、混乱してしまったのか…このんは泣き叫んだ。

不「…暁来さん…」
一「暁来……」

かと思いきや、ピタッと電池が切れたロボットのように叫ぶのを止めた。

クシャリと顔を歪め、告げた。

「……竜崎せんせーに、聞けばいいの…。わたし…、おとといからずっといたもん……」

「滝しゃん、越前くん…ありがとー…」と呟き、このんはダッシュでその場からいなくなった。

このんがいなくなり、後ろにいた桃百合が近付いてきた。

桃百合「わかしぃ〜、だいじょぉぶ?」
日「!…えぇ、てか……

何かありました?


先ほどのことを忘れたように平然と日吉は桃百合に返した。
それには、呪縛にかかっていない者も抜け出した者も酷く異常に感じた。

幸「あれ……
みんな集まって…何してたんだ…?
姫華、タオルもらえるかな…?」
桃百合「ぅん♪はい、どぉぞっ!」

海「…なんだよ…コレ…」

海堂がポツリと呟く。
越前は黙っていたがすぐさまこのんが行った方向に走った。

切原も後を追った。

跡「おい!越前に切原っ!!」
滝「…行かせてあげなよ……
…日吉の言葉は…流石に酷すぎた…」

キッと桃百合を囲み話す連中を睨みつけてから滝は跡部を見る。

滝「…跡部、全力で桃百合姫華を潰したいよ……」

アイツが、幼く優しい少女を傷つけた……
跡部は一瞬目を見開くも、いつもの不敵な笑みを浮かべる。

跡「俺様も…あんな奴に捕らわれてたなんて反吐が出る…。
あの雌猫の化けの皮を剥いでやるか」
不「あと、捕らわれた彼らを覚まさせることだね…
日吉は……暁来さんへの謝罪…かな」

クスッと笑うも、彼の目は冷え切っていた。

越前と切原がみにまむ少女を見つけるまであと5分……

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あきゅろす。
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