さみしいね。 テント着き、ドリンクやタオルをテーブルに置きひと息つく。 チラッとベンチを見れば桃百合にちやほやする部員たち。 柳たちはストレッチや柔軟、筋トレをやっているのに…。 桃百合も満更でもないらしく、楽しげな表情で、どこかニヤついた表情で彼らと喋ったり、ボディタッチをしたりしていた。 大好きな王子様たちに取り合いをされて嬉しいのだろう。 日吉が彼女に抱きつかれていた。 このんは視線を彼らから外した。 見ていて、あまりいい気分ではなかった。 「…?」 そのことに小首を傾げた。 桃百合とみんなが仲良くなっていれば昨日のようなピリピリした空気がなくていいのに…と それに、このんは日吉が彼女に抱きつかれたときに寂しく感じた。 何故だろうと考えるも、よくわからず、とりあえず小屋の掃除をしようと戻った。 テントから離れた時、桃百合がドリンクとタオルを取って彼らに配っていたのを感じながら…。 桃百合「どぉ〜?姫華が作ったドリンク美味しぃ?」 白「うまいなぁ!沢山飲みたくなるほどやで」 桃百合「言い過ぎだよぉ〜、蔵ぁ」 財「言い過ぎやないッスわ。ホントのことッス」 金「…蔵リン、どうしたんやろ…まるで操られたか何かに取り憑かれたようにあの子を褒めとる… 財前くんも、一度嫌ったらとことん嫌う性格なのに…」 金色は変わってしまったチームメイトを苦しげに見ながら練習をしていた。 小石川も、打ち返しながら同意するように頷く。 小「ユウジも、おかしいで あんなに小春小春言うてくっ付いとったのに、桃百合に引っ付いてはる… 謙也も、金ちゃんも、千歳も、師範も…そして俺ら練習しとるモン以外の奴ら、まるで別人や…!」 金「…今は見ているだけしかできへん… 次のラリーの相手はあの4人も呼んでやろうなぁ、健さん」 小「…せやな。 よし、ストレッチ終わったし4人を呼びにいこか」 お互いに励まし合い、ラケットを持って他の4人のもとに向かった。 一方、このんは榊監督と竜崎先生に呼ばれた為、小さなホワイトボードに小屋を離れることを書きドアノブに掛けておき、その近くにドリンクやタオルの入った袋を置いて合宿所の会議室にいた。 榊「暁来、何かおかしいことが起きていないか?」 「…起きて…ます」 榊監督の問いに肯定を示すように頷いた。 彼は、静かにそうか…と呟いた。 竜「合宿所の中からコートを見たんだけどね、部員のほとんどが榊監督の姪っ子のところに集まっているのが見えたんだよ。 …一体…、どうしたんだい…? わかることだけでも、先生たちに教えてくれないかい…?」 先生として、顧問としてこの状況は無視できないのだろう。 全国大会の舞台に立ったもの達が、恐らく最後になるであろう合宿で一人の女子に現を抜かすなど… このんはしばらく黙っていたが、口を開いた。 震えた声で言葉を紡いでいく。 できるだけ詳しいこと、細かいことを先生たちに伝えた。 早朝に日吉が稽古を約束していたのにいつまで経っても来なかったこと。 朝食の時に金色、小石川、柳、滝、樺地、乾以外が彼女に夢中になっているのに気付いたこと。 練習時間始まって五分後に6人以外が桃百合を囲むようにやってきたこと。 遅刻などをすれば皆罰があるはずなのに、何もしなかったこと。 ランニングやストレッチなどをせずにいきなり練習を開始していたこと。などだ。 それを聞いた2人は黙って考えていた。 榊「四天宝寺の金色と副部長小石川、立海の柳、青学の乾、我々氷帝の樺地と滝は今どうしている?」 静寂に満ちていたため榊監督の声がはっきりと聞こえた。 「6人のせんぱい方は、いっしょーけんめー練習してるです…。 ちゃんとランニングして、ストレッチして、柔軟して、筋トレして… 今はラリーしてる、と思います…。」 先ほどここにくる前に見た彼らの様子を思い出し、伝えた。 榊監督はどこか悲しげに笑ってそうか…と言ってこのんの頭を撫でた。 竜崎先生の表情も曇っていた。 だが、ほんの少しだけ安心したような表情だった。 竜「こう言うのは変だが、乾だけでも真面目に練習に取り組んでくれて良かったよ…。流石は、データは嘘をつかないと断言する男だ…。 だけど、これからが大変かも知れん…」 榊「そうですね… …暁来、6人に伝言を頼めるか?」 悲しげな表情は消え、監督としての表情がそこにあった。 このんはコクリと頷いた。 「やなぎ先輩…いぬい先輩……」 柳「暁来か… 監督たちに呼ばれていたそうだな。 声をかけてきたというのは、榊監督か竜崎先生から伝言を頼まれていて俺たちに伝えようとしているとみるが…」 休憩中の柳と乾に会議室から帰ってきたこのんが話しかけた。 柳の推測に肯定を動作で示す。 「あい。他の4人のかたにも…です。」 乾「だったら俺が後の4人を呼んでこよう。」 柳「頼む、博士」 乾「あぁ」 乾が走って4人を呼びに向かった。 柳は乾の背中を見送っていたが、このんに視線を戻した。 柳「…監督たちもこの異変に気づいているみたいだな…」 小さく溜め息を吐き出し、呟くように言う。 このんは桃百合のいるコートに目を向けた。 練習をしているようでしていない部員たち。 それを見てはしゃぐ桃百合。 「………わたしは、すごく臆病、です… 桃百合さんに…注意できないです… ひよしくんたちに…ちゃんと練習しようって…言いにいけない、です…」 顔を伏せて小さな声で言った。 独り言にしか聞こえないかもしれない。 柳には聞こえないかもしれないが、苦しげに呟いた。 柳「…それは、俺もだ」 返事が帰ってくるとは思っていなかったため、目を丸くして顔を上げた。 柳「俺も、アイツらに拒絶されるのが怖い臆病者だ…。 仲間に拒絶されるなど、テニスを辞めること以上に辛いだろう…」 そっと自分より遥かに小さい少女の頭を撫でる。 このんは静かに柳を見上げ続ける。 柳「だが、この様子が続くなら、神奈川立海大学付属中学校テニス部参謀兼達人の柳蓮二として、アイツらと対峙する必要があるだろう。 …その前にいろいろデータを集めるがな。」 フッといつもの笑みを浮かべる柳にこのんは首を傾げて尋ねた。 「やなぎ先輩… ……今は、さびしい…です…?」 柳「…そうだな…。 暁来も、そう思っているだろう…? お前にとって、我々は兄のような存在だろうからな…」 「………さみしい…です… お兄ちゃん…とられた…きぶんって…こんな感じですか……?」 柳「……さぁな…俺には兄がいないからわからない。」 キュッと、空いている柳の手を両手で触れた。 その手が小さく震えていることに、彼は気付いたがただ頭を撫で続けた。 柳が4人を連れてくるまであと10秒… [*前へ][次へ#] [戻る] |