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おひめさま?いるわけないよ (二万ヒット企画/ゆい様)

東京都立氷帝学園中等部、そこはテニス部が有名だ。
テニスの腕はもちろん、ルックスが上なため女子たちはファンクラブを立ち上げるくらいだ。

そんな彼らには、いつも一緒にいるみにまむ少女がいた。

「けーごかいちょ、かばじ先輩、おはよーございます…です」

ふんわりとした栗色の髪と琥珀の少し眠たそうな目をもつ少女、暁来 このんだ。

ミーハーな女子に厳しいテニス部部長・跡部景吾も、この少女には柔らかい笑みを浮かべている。


樺「おはよう…ごさいます…」
跡「よぉ、今日は男子テニス部の手伝いにこれるのか?」

このんはときどき男子テニス部のマネージャーの役割をしている。
少し考えて小さく頷いた。

「あい!今日はだいじょーぶ、です!
そーいえば、姫宮さん?はマネージャーがんばってるです…?」

このんの口からでた名前に、跡部や表情の薄い樺地までもが顔を歪めた。

姫宮とは一週間前に転校してきた少女だ。

フルネームは姫宮 夢華と言い、金のウェーブがかったロングヘアーとピンクの瞳、そして濃い化粧と性格が印象的なある意味有名な3年A組の転校生だ。

濃い性格というのが、
転校初っ端の挨拶の言葉が
姫「はじめまして、姫宮 夢華よ。
テニスが好きだから、男子テニス部のマネージャーになろうと思ってるわ。
もしこのクラスに男子テニス部のファンクラブ会員がいるなら、私をいじめても無駄よ。
せいぜい足掻きなさいな
まぁ、私と仲良くしたいと思う人は特別にしてあげるからよろしく」

だ。

彼女が入ってきて挨拶までは男子女子共に盛り上がっていたが、この挨拶によって皆ドン引きだった。

しかも、席を先生に言われたところ…

姫「はぁ…?なんであそこなの?
私はあそこがいいのよ。
空いてるみたいだし、普通はあそこでしょう?
え?あそこは今日休みの人が座っている席?

別にいいじゃない。席替えしたってことにすれば構わないでしょう」

とかなりの我が儘っぷりを披露した為、女子はともかく面食いな男子すら誰一人彼女に近付いたりしなかった。

跡「あんな雌猫がちゃんと仕事をすると思うか?あーん?」

無理やり男子テニス部のマネージャーとして入ってきたクセに、彼女は全くと言っていいほど仕事をしていない。
応援を勝手にし

姫「私がアンタ達の為に応援してあげてるんだからちゃんとしなさいよ。
なんなら私が相手してあげてもいいわよ?
私の方が技術は上なんだから」

と嫌みを言う。
おかげで部員たちの士気がかなり下がっている。
しかも、このんが彼らと食事をとっていた時、いきなり現れてこのんに向かって

姫「アンタ、何景吾達と食べてんの?
もしかしてアンタが景吾達を誑かしてるんでしょ。景吾達だって嫌がってるじゃない。何なのアンタ」

と好き勝手に言ったが為に一番可愛がっている滝や忍足、大切にしている日吉がキレて跡部がなんとかおさめたのだ。
あの時は彼もキレてはいたが…

そのことはたちまち学園内の生徒たちに伝わり、皆姫宮を嫌った。
美玲の言動が世にも恐ろしかったのはつい先日のことだったりする。

「さいきん、いけないからわからないです…
けど、頑張ってるか、ちゃんとみたいです。」

百聞は一見にしかず、ですと笑う。

跡部はのんびりと言う少女に、小さく苦笑をもらして頭を撫でた。

跡「ならしっかり見てもらわねーとな。
お前の判断に任せる」
「あいっ!」

にぱっと笑えば生徒会室を出て行った。
しばらく少女の背中に笑みを向けていたが、跡部は仕事を始めた。








すべての授業が終わり、掃除が終われば部活が始まった。
中には委員会で集められている者もいるが、ほとんどの生徒は部活に向かう。

このんは掃除を終わらせればすぐに女テニの更衣室に入った。
臨時マネージャーのときも着替えはここで行うのだ。

部「あら、このんちゃんもう行くのね」
副「あの女には気をつけてね!
もしなにかされたらウルトラマンの如く、いやアンパンマンの如く向かってけちょんけちょんにするから!!」
「ふくぶちょー、アンパンマンです?」
副「そうよ!!でも水は平気だからね!
あぁ…でも食べられるよりこのんちゃんを食べry 部「黙りなさい。気にしなくていいわ、いってらっしゃい。」うぅ…部長全部言わせてくれよぉ……まぁ、いってらっしゃい!!」

部長と副部長に送り出され男子テニス部の部室に向かう。

部員の皆はこのんを可愛がっているため、今日来ると聞いていつもより早くランニングや準備体操に取り組んでいた。
芥「あっ!このんちゃーんっ!」

普段寝ている芥川は珍しく起きており、猛ダッシュでこのんに向かって行ったのちガバッと抱きついた。
よろけて倒れてしまったが。

芥「今日なんで一緒に弁当食べなかったのー?オレ待ってたんだCー!」
「ごめんなさい、じろちゃん先輩。
委員会でいけなかったです…
あした、いけるの…」
芥「マジマジ!?なら明日待ってるCー!!」
向「あーッ!!ジローマジずりぃー!」

向日が部室から出てきて芥川がこのんに抱きついていることに気づいた。
向日も抱きつく

向「今日このんがマネの仕事やってくれんだろ!?
ドリンクはいつも通りに作ってミソ?」
「あい…
みんないつもどーり、作るです」

へにゃりと抱きつかれながらも気の抜けたような笑みを浮かべた。
抱きつかれるのは日常茶飯事だからか特に気にしたりはしない。

余談だが、学園の女子のだいたいはこのんを可愛がっているため、この3人で集まると目の保養になるらしい。

ふと、芥川と向日が誰かに襟元を猫のように掴まれこのんから離された。

帽子をかぶった少年と癖毛で丸眼鏡をかけた少年に、だ。

「あ…、りょー先輩とゆーし先輩……こんにちは」
宍「ったく、コートの近くに何やってんだよ。激ダサだぜ…
よ、このん」
忍「そろそろ行かんと跡部にどやされるで
こんにちは、このんちゃん。今日はよろしゅうなぁ…」

あきれた表情と、にこやかな表情にこのんはキョトンとしたがへにゃりと笑った。

「あい!サポート…がんばるです…!」
忍「ほんまかわえぇわぁ〜。
水分補給はちゃんとするんやで」
向「んじゃあ行ってくるぜ!」

忍足はこのんの頭を撫でて、向日は抱きついてからトレーニングに入って行った。
宍戸は軽く手を上げ芥川を引きずり、引きずられている本人は満面の笑みで全力と言っていいほど手を降って向かう。

このんは時間を確認し、小走りで部室に入って行った。

「きょーも1日ふぁいおー」

と自分なりに渇をいれていたりする。


タオルを洗濯機で洗濯している間にドリンクを作っていた。

その時、ガチャリとドアの開く音がした。

姫「うふふ…
今日もいいぐらいに売れたわねぇ…
って…アンタ…景吾達を騙し込んでるチビ女ッ…!
なんでアンタなんかがここにいんのよ…
ここはマネージャーの私が入っていいと許された男子テニス部の部室よ…!
アンタみたいなミーハーが入っていいような場所じゃないの!!」

いかにも高そうな自分の財布の中を見ながらほくそ笑んでいた姫宮はこのんを見て目を見開いた。
そして、苛立ちを含んだ声で睨み付けながら言葉を吐き出した。

が、このんはただシャカシャカとドリンクのボトルをひたすら振るだけだ。

それに更に苛立ったのか、姫宮はこのんを突き飛ばした。

倒れた衝撃で作りかけのドリンクは床にぶちまけられてしまった。

「あっ…っ…」
姫「いーい?アンタは私の引き立て役のモブでしかないのよ!
ドリンクを作ってくれたのは感謝してあげる…
でも、景吾たちのマネージャーはこの姫宮夢華なのよ!身の程を知りなさい、この下女が」

このんの髪を鷲掴み、嘲笑いながら言えば満足したのか床に叩きつけるように手を離した。
鈍い音を立てて頭を打ったが、武術を心得ているおかげで上手く受け身を取った。元々石頭であるのも幸いしているが

姫宮がこのんの作ったドリンクをレギュラー分持って出ていった後、すぐにまたドアが開いた。

日「このんッ…!」

ランニングやストレッチを終えた後なのか、僅かに汗を滲ませている日吉だった。
起き上がらせ、鷲掴まれたことによって乱れた髪を手櫛で直す。

「ん…、ありがとー…わかしくん。」
日「大丈夫か…?」
「あい、頭ごっつんしたけど、だいじょーぶ」

いしあたまだもん、と笑っている少女に、少し安堵の表情を浮かべる。

が、
険しい表情で消された。

日「…あの女…お前の作ったドリンクをさも自分が作ったかのように渡してきた。
…許さねェ」

毛嫌いしている相手が、自分の大切にしてきた少女を貶したことが、腹立たしい。
ギュッと拳を握りしめたとき、目の前の少女は柔らかい笑みを浮かべた。

「わかしくん、わかしくん。
だいじょーぶ…もうわかしくんたちは辛くならないよ」

だいじょーぶ、とこのんは自分より少しだけ薄い幼なじみの髪を撫でた。
彼女の言葉に、日吉は内心首を傾げるも入ってきた滝の言葉と様子で悟った。

滝「このんちゃん、ちゃんと撮れたよ」

にっこりと…だが威圧的な笑みを浮かべた滝は、片手にビデオカメラを持っていた。

「ありがとー、滝しゃん」

いつも通り幼い笑みだが、どこか今の笑みは大人びていた。

そして、このんは言った。

「わかしくんたちの持ちもの…
なくなったっていってたよね…?」





次の日、
姫宮は屋上にいた。

『3年A組姫宮夢華さん…3年A組姫宮夢華さん至急学園長室に来なさい。』

その放送で呼ばれた姫宮に待っていたのは、学園長と…数名の警察官

調べたが、戸籍が全く存在せず金もどこから出したのかわからない。

しかも、彼女は犯罪を犯していた。

男子テニス部レギュラーの私物を盗み、半分以上を他校の生徒に売ったのだ。

それがバレ、化粧のされた顔を真っ青にし、警察の手を振り切って何とか逃げ、屋上にいたのだ。
姫「な…なんでッ!?
なんでバレてるのよ!!
しかも…戸籍ないなんて…
ッ…は…早く神様を呼ばないと…!!」


「…どーしたの…です?」

いきなり声がし、姫宮は勢い良く振り向いた。
フェンスの近くに、自分が敵意を持っていた少女がいた。

平然と、ただこちらを見ている。

「姫宮さん…どーしたの…?」

姫宮はしめたと思った。彼女を生贄にすれば…、あの時友人を殺したように殺せば、[神様]を呼べると考えたのだ。

―神様を呼んで、今度こそ逆ハーになるよう仕向けよう

―私の為に殺されるのだから、有り難いでしょ



姫宮は、ハサミをポケットからバレないように取り出し、近付いた。

姫「ふふ…ねぇ、暁来さん…
少しお願いがあるのだけど…」
「?…なにです…?」


手が届く距離になった時、姫宮はハサミを振り上げた。

姫「ッ私の為に死になさいよぉぉぉおおッ!!!!!!!!」

勢いのついたハサミを、この少女が止められるはずがない。
振り下ろしたハサミが彼女の心臓を突き破ろうとした時………


このんは……笑った

「…ざんねん…でした」

その言葉と同時に、ハサミが地面に落ちた。

ハサミが当たるまであと1cmもなかったはずなのに、何かに阻まれたのだ。

だが、このんは全く動いてはいない。

『全く…愚かなものだ』

少女の横に、黒いロングファーコートに身を包み、フードをかぶった黒髪の青年がいつの間にか立っていた。

姫「え……あッ!!か…神様ッ!!」

姫宮は目を輝かせた。

―きっと、先ほどの展開は何かの間違えで、今度こそ逆ハーになれるのね!

姫「神様ッ!!今度こそちゃんと私を逆ハーにしてッ!!」


彼女はわかっていなかった…
忘れていた。

何故、暁来このんという少女を殺せなかったのかを。

『クククッ…まだ、気付いていなかったのか…
愚かな娘だ』

長い前髪で隠れていた金色の目が、愉快そうに細められ、口角が嘲笑うように上がった。

『いつ、我が[神様]だと言った?』
姫「…え……」
『ククッ…我が名は、シニガミだ。』

シニガミは、愉しげに笑った。

姫宮は、理解できないといった顔をしていた。

シ『少しは自らの罪を認めると思ったが…やはり夢に狂った娘だ…
神すら貴様を天国には行かせんわ…』
姫「…な…んで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…なんでよッ!!?
生贄は捧げたじゃない!私がお姫様なのよッ!?私を敬って、私の願いを叶えなさいよッ!!!」

狂ったように叫ぶ姫宮に、黙ってみていたこのんが口を開いた。

「…おひめさま…?そんなのいないよ。
いるわけ、ないよ。
…なんで人を殺した人に、かみさまがおねがいを叶えるの…?」

少女は、ハサミを向けられた時と同じような笑みを浮かべ、言った

「さよーなら、

姫宮さん、地獄いきだって…」

絶望した顔の少女を、シニガミは消した。

跡形もなく、すべて…


シ『…危ない真似をしてくれる』
「だって、なかまのじゃましたもん…」

2人は先ほどとは全く違った柔らかい笑みを浮かべた。
シニガミは、そっとこのんの頭を撫でる。

シ『もう来させん…
また会おう…愛しき子よ』

風とともに、彼は消えた。
残ったこのんは、自分を呼ぶ声が聞こえ、頬を緩めた。

「みんなだ…
いかないとなー…」

小走りで屋上の扉を開けた。

「……みんなにはなーいしょ…だよ」

このんのその言葉は、ただ空気に溶けて消えた…誰にも聞かれることなく…


(すべてもとどーり)
(姫宮さん…?…ゆくえふめーだって…)





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ゆい様、リクエストありがとうございました!!
なんというか…小悪魔なこのんちゃんが思い浮かばず、上手く書けた自信はありませんが、とりあえず書かせていただきました。

長らくお待たせいたしましたッ!!


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