┗紅と白と
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会いたい…。
不意に、シロの目も鼻も無い口だけの顔が浮かんでくる。
どうして…。
どうして、シロと一緒にいると、あんなに心安らぐんだろう。シロに触られても、気持ち悪いなんて思った事はない。
会いたい、触れられたい、触れたい。よく知りもしない男の人に触られた感触をシロで誤魔化して欲しい。
独り、夜道を歩きながら確信して、苦笑する。
「…これが、好きって事なんだね。」
私は、シロが好き。
シロに会いたい。シロ以外に触れられたく無い。そんな思いが止まらない。
胸の奥が何だか熱くて、心臓が掴まれたみたいにキュウキュウする。きっと、私の心臓はシロに掴まれちゃったんだと思う。
恋をすると、胸が苦しい。なんて、よく聞くけれど、こういう事なんだね。
いつの間にか、私の足は早歩きに、そして駆け出していた。
夏の風が耳を掠めて、ヒューとなる。だけど、自分の心臓の音に掻き消される。
走っているせいもある。でも、それよりもシロへの気持ちに気づいてドキドキする。
「…〜っ、はぁ〜…。」
深呼吸。自分の家の玄関は目の前。扉を開ければ、待ち望んでいる人物に会える。
ドアノブに掛けた手が、震える。
ガチャ…
「ただいま…。」
震えていたかもしれない。掠れていたかもしれない。それでも、私は平然を装おって玄関に入る。
ドアを閉めると、暗い部屋の奥からユラリと影が近づいてくる。
「べにこ、おかえり。」
そう言って私を抱きしめるシロ。触れた場所から体温がじんわりと伝わって、何かが込み上げる。
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