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雨空
あの日の理由

『強く、なりたいからです』

「え、?」



『強くなりたくてなりたくて、止まらないのですよ。
強者と戦いたくて仕方ないのですよ。
身体が暑くて、暑くて、夜兎の血が、戦いを渇望していたのです。

あの日は。』







『おやすみなさいなのです』

そう言って、斬凪は目を閉じた。

何だか、それ以上聞けなくて、私も目を閉じた。


斬凪が、昔よく一緒に遊んでいた斬凪が、まるで別人のようだったから。


久しぶりに会ったときも、感じていた。

斬凪に染み付いた、血の匂い。
幾多の戦場をくぐり抜けてきた、本物の、夜兎の匂いを。

でも、私を呼ぶどこか単調な凛とした声も、さらさらと揺れる灰色の髪も、真っ直ぐな深い藍色の瞳も、全部全部、昔一緒だった、大好きな斬凪そのものだったから。

怖さなんかは感じなくて、ただ会えて嬉しかった。


でも、今の、斬凪の瞳は。小さな笑みは。


あいつ



馬鹿兄貴と、。


穏やかな笑みの中に、狂気と貪欲な虚無とを秘めたような斬凪に、

馬鹿兄貴が重なって見えて。


少しだけ、本当に少しだけ、斬凪が怖くなった。



「……斬凪があの馬鹿兄貴と一緒のはずないネ…」






兄がこなせなかった親殺しを、斬凪がこなしたと私が知るのは、ずいぶん先の話。

兄と斬凪の、切れない糸も。



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あきゅろす。
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