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◆Short Novels

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「あ、あ……はっ……あ、」
「……っ」

苦しくて痛くて、快感を得るどころではなかった。
息を吐くのも吸うのも辛くて、ひたすら口を開けて空気を取り込む。
中心に大きい釘を刺されたような感覚で、身体を動かす事すら出来ない。
だからきっと、この涙は痛みから来る涙なのだろう。


「樹さん……」
「しゃべ、んな……」


青年の言葉を発するその震動すら辛くて激痛を走らせる。


「ねぇ、泣いてるんですか?」
「っ、だから、しゃべん、な……」


痛くて涙が出ているのだと普通なら考えるし、事実樹は激痛で生理的に涙をこぼしていた。
けれど心がそれだけじゃないと訴えているようだった。
痛感?嫌悪感?快感?
いや、これは幸福感だ。
こんなに苦痛で羞恥的で屈辱なのに、幸福感から涙をこぼしているのだと訴えている心。
自分の心なのに、自分の物ではないようで、樹は自らのの中に生じている矛盾に耐えられなかった。

あぁ、こんな心を捨てて消えてしまいたい。


「……ちょっと足りなかったかな」
「っ、は……あ……」
「樹さん、もう動きますね」
「あ、や、あ、まだ……い"あ"ぁぁぁっ」


グリグリと身体を引き裂かれる。
痛ければ痛い程に矛盾が大きくなった。
屈辱で耐えられなくていっそ殺してくれと願えば願う程に、更に矛盾は広がる。

年下の青年に女以上に乱暴に雑に扱われ、本来の役割を果たさないやり方で身を裂かれ入れられて、樹の精神はボロボロになっていた。
けれど助けてくれと、優しくしてくれと願わないのは最後のプライド。
心まで屈してはならないという最後の砦。

それなのに、頬を伝う涙が温かくて優しくて、自分の存在すら不安になる。
残している筈のプライドだが、この感情はもはや樹の物なのだろうか。


「あ"、動く、なぁ……ひっ、はっ……も、やだ……」
「まだ奥まで入ってないよ樹さん」
「むり、だ……抜けぇぇぇっ」


元々元気はなかった樹のモノはそれまで以上に萎えて先走りすら流していない。
ただひたすら、青年の為だけに使われて身体を開かれて奥へと進められる。
惨めだと思った。


「っ、……樹さん、奥まで入りましたよ。分かりますか?」
「あっ……はっ……んっ……」


そして長い長い苦痛と激痛を堪えた末に、青年が言った。
その頃にはもう樹は目を赤くして、お飾りのように青年の首に手を回していて、放心状態だった。

だが、不意にかつてない程に心が幸福感で満ちる。
こんな状況なのに、今過去最高の充足感が襲ってくる。
それこそ、今まで生きてきた中で最高のもの。


「あ、や、なに……違う、違う」
「……」
「何なんだよ、これ……こいつに俺犯されて、殺したくて堪らないのに、なんで…………」
「樹さん」
「……やめろ、名前を呼ぶな、やめろ……やだやだ」


頭を左右に激しくふる。
脳内でおこる映像のフラッシュバックが記憶に無いものばかりで、けれど何故か懐かしい。
知らない記憶のはずなのに、その映像を見れて嬉しいと思っている自分。



『また会えるまで何度でも俺を殺してくれ』
『それなら俺が殺せるように何度も俺を生かして』


「………………樹さん」


名前を、呼ばれた。
酷く懐かしい声だった。
あぁ、俺はこの声を知っている。
ずっとずっと待っていたんだ。


「俺を殺してくれてありがとう…………翼」


樹のナカに埋められている痛みでしかなかったものが、急速に快感へと変わっていった。

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あきゅろす。
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