◆Short Novels 7 . 「精神的に殺すの、けっこうキツイんですよ?」 学生服に身を包んだ青年である翼が、優しく微笑んだ。 「最初からお前が真実を言えば良かったんだよ」 不貞腐れたように言う樹に翼は再び微笑んだ。 先程までに見せていた笑みとは異なる、優しいものだった。 「貴方と俺は元は悪魔と天使だったのに禁忌を犯して愛してしまった。だから再び会うにはこうした手段でないと記憶を取り戻せないって?俺は樹さんに会わないと成人を迎えるまでに死んでしまうって?その為に出会って酷いやり方で犯して思い出せないとダメなんだって?そして、何度も何度も輪廻を越えているって?」 「……頭おかしいよな」 ふふっと二人とも柔らかく笑った。 事実だとしても、最初からそう説明されて、それなら仕方ないから酷く犯してくれ、という展開になるわけがないだろう。 そんな話、誰も信じない。 「今回は強情な人に転生したですね樹さん。おかげで大変だった」 「お前こそ年下かよ。けど悪魔の魂は変わらず黒いまんまだな」 「樹さんこそ、中身は綺麗なまんまだ」 お互いに頬に啄むように口付けをしながら言葉を交わす。 先程までの殺伐とした空気なんてもはや流れていない。 流れているのは、ずっと探していてようやく出会えた恋人同士のような甘い空気。 事実、その通りだった。 「……なぁ翼。もう昔話は終わりにしよう」 「はい。なら、お願いしてくれますか?」 向かい合って後孔に翼のモノを入れたまま、樹は翼の腰に足を絡めた。 そして耳許で囁くように告げる。 初めて言うのに、既に何回も言っている誓いの言葉のように躊躇いはなかった。 「お前のおっきいので、俺を酷く犯してくれよ」 「っ、よく分かってますね」 「んあぁぁっ」 グリッと奥に突かれて、樹はそれまでとは異なる甘い声が公衆便所に響き渡る。 誰に聞こえても構わなかった。 待っていた分だけ、存分に快感を得たかったから。 「記憶を失っていて、俺に心を伝える力なんて無いのに何度か伝わってきて……その度、この人は俺の事を覚えてるんだって嬉しかった……」 「あ、ん……忘れるわけ……ないだろ」 「…………嘘つき」 「んぁぁぁっ」 隠しようの無い欲望を掴まれて、樹は苦しい声をあげる。 「樹さんだけ忘れるなんて、ズルいな」 「っ、あ……でも、お前だって……」 お前だって、俺に会って寿命を延ばしてやってもすぐにいなくなるくせに。 「……天使さまは優遇されてて良いですね」 樹が言いかけた言葉を察したように翼が微笑んだ。 その微笑みが悪魔とは思えない程慈しみに満ちていて、樹はゆっくりと手を伸ばす。 「けど、悪魔の俺からすれば貴方は住む世界が違うから……そんな貴方にこうして触れ合えるのなら、軽いものです」 「……翼」 翼の頬が手に触れる。 「もう、良いから……続けろ」 「はい、もちろん」 「ひぁぁぁっ」 グッと奥を突かれて、この場所が公衆便所である事も忘れて高い声をあげる。 その求められる激しさを味わいながら、幸せに満ちながら、樹は頭の片隅でふと考える。 翼が知る事のない、樹だけの知り得る事。 天使なのに悪魔と愛し合って結ばれた罰の代償。 「……翼、ナカに、ちょうだい……いっぱい、くれ」 悪魔は天使と再会して結ばれる事で数年寿命が伸びる。 けれどやがて死んでまた輪廻転生する。 なら、残された天使は?寿命を全うする? 「樹さん……」 「ぁ……熱……気持ちぃ……」 天使は、悪魔に種に与えられてから次に与えられるまでの期間が一定以上空くと、何かしらの方法で寿命を終える仕組みになっている。 「翼……俺は、お前と会ってこんなに満たされるなら死んだって構わない」 「何言ってるんですか。それは俺だけで良いんですよ」 「…………愛してる」 「はい、俺もです」 愛してる貴方に会えるなら、何度でもこの身を捧げても構わない。 Continue……? [*前へ] [戻る] |