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◆Short Novels


「姫!助けに来ました!今そちらに参ります!」
「あぁ、王子様。お待ちしていましたわ」
「私があなたを必ず救い出してみせます」
「えぇ、私の心はずっとあなたのもの…」
「姫、愛してる……」
「……私も、あなたを……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………奏斗、台詞」
「っ、」
「続き、早く」
「っっ!!言えるかぁぁ!」
「痛っ」


頭に思い切り投げつけたのは台本。
落ちて開いたページには先程の台詞が書いてあり、奏斗の台詞の続きに示されているのは"愛している"という言葉。


「今時な日本男児がこんな事言うか!馬鹿!」
「お姫様だから。ヨーロッパが舞台だから。日本男児じゃないからさ」
「っ!でも俺は日本男児だ!」
「でも、役だからさ。気にしちゃダメだよ」


頭をさすりながら奏斗を宥めてくる人間に腹を立て、奏斗はビシッと指をさした。


「そもそも、尋人が悪いんだよ」
「なんで?」
「俺は部外者なんだ」
「演劇部に入ってくれたら良いのに」
「学校違うよな?」
「絶対お姫様似合うと思うよ?」
「お前のところは共学だし、俺は男だから」
「そこらへんの女より、奏斗の方が可愛い」
「……だから…」


この幼なじみと話が噛み合わないのはいつもの事だ。
会話のキャッチボールが上手く出来ない。
華奢なわけでもない奏斗に向かって女子より可愛いという言葉を使うのは尋人くらいだ。
本当に、変わっていると思う。


「他の女に愛の言葉を囁くとかゾッとするよ」
「っ」


耳元で囁かれる聞き慣れた低音の声に背筋がゾワッとした。
自分に見せる甘さと、その他に見せる冷たさのその相反した態度は嬉しさよりも奏斗にはむしろ怖さが勝った。


「だから、いつも劇の時は観に行ってるだろ……」
「練習の時はいないじゃん」
「……だから、こうして付き合ってるだろ」
「足りないよ、そんなんじゃ……」
「っ、尋人っ」


トンと背中を押され、背に当たったのは柔らかい布団。
ベッドの上に仰向けにされ、奏斗は尋人を見上げる状態になる。


「価値の無い女に愛の言葉を囁くんだから、奏斗も俺にご褒美ちょうだい」
「…ご褒美って?」
「好きって言ってくれない?」
「……言わなくてもわかるだろ、そんなの」
「さぁ?俺には分からないな……」
「ちょ、尋人!」


スッと目を細めて纏う空気を一変させた尋人が奏斗のズボンに触れる。
そして、まだ勃ちあがっていないそれを優しく包み込んだ。


「言わなくても分かるっていうなら、せめて行動で示して欲しいよね……」
「っ、あ……止め、触んな……」
「奏斗、行動で示して欲しいな?」
「…ぁ…どうやって……」


布越しに優しく包まれ揉まれながら、徐々に熱をもたせる身体に、尋人は優しく微笑みながら無情な事を告げる。


「自分でさ、してみせて?」
「……そんなの」
「もちろん、前じゃなくて、後ろね?」
「っ!!」


一気に顔を真っ赤にして、首を横に振った。そんな事、恥ずかしくて出来るわけがない。
自慰の方が、まだマシだ。
でも、尋人が要求したのはそれではない。


「奏斗、俺の事嫌い?」
「そうじゃない……けど……」


それとこれとは、話が別だろ?
相手に対する好き嫌いの問題じゃなくて、羞恥心の問題だ。
むしろ、相手の事をプラスに考えているからこそ、恥ずかしい。


「なら、今奏斗は奏斗じゃなくて、お姫様って事で」
「は?」


何を言っているのか分からず、奏斗は目を丸くして尋人を凝視した。
普段から何を言っているか分からない奴ではあったが、時に本当に尋人は理解出来ない事を言ってくる。


「演技をするんだよ。奏斗じゃないんだから、恥ずかしくないでしょ?俺も、尋人じゃない」
「……役、ってこと?」
「うん。いつもの、俺との演技の練習の延長。だから、演技なんだから良いんだよ」


その尋人の言葉で俺はゆっくりと身体を起こした。


「………わかった」


奏斗はまず自らズボンと下着を脱いで、上半身だけ裸になる。そして自分で後ろを解しやすくする為、奏斗は仰向けだった状態から四つん這いになり、言われずとも尻を尋人の方へ向けた。
怖さと緊張で震える手を抑え、自分のモノへ添える。


「良い眺めだな」
「っ、うるさい…」


大丈夫。演技だ、これは。
馬鹿尋人の演技の相手。
だから、俺は演技で仕方なくこうしてるんだ。
奏斗としての、俺じゃ、ない。
そう自分に言い聞かせ、何度も呼吸を整えた。

ローションもなく後ろを解す事は難しい。けれど、きっと尋人はローションを渡してはくれないだろう。
それなら、まずはそれをする為に、自分で準備しなければならない。


「っ、あ……」


奏斗は目を閉じて、ゆっくりと自分のモノを上下に擦り始めた。

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