◆Short Novels 2 「あ、濱本っ………」 「一人で大人しくするんじゃなかったっけ?うるさいんだけど」 「んっ、ごめんな、さい……んぁっ」 もう少しウォークマンの音量を上げるべきか。濱本は背後から聞こえてくる佐藤の声を煩わしく、しかしバックミュージックのように感じながら思案する。 「っあ……はま、もと……いつ、終わる?」 「さぁ?分からないね」 「んっ……あっ、待ってる、から。早くっ」 「誰も相手するなんて言ってないよ」 「あっ、そんなっ……んんっ」 「佐藤うるさい。口塞ごうか?」 後ろは振り向かず佐藤に背中を向けたまま、佐藤のネクタイを掲げて質問する。答える気力が残っているかは分からないが。 本当はもうやることは終わっているし、実は今は読書をしている。佐藤の相手をしようと思えば出来ないこともない。 しかし、濱本は相手をしてやらない。 「あ、ごめんな、さい……大人しく、してるっ……」 「そうして」 口を塞がれる事が嫌なのか、声を出せなくなると更に辛くなるからかは不明だが、佐藤はネクタイを使わずに黙るという選択をした。 濱本はそれに対してうっすらと笑みを浮かべて、ゆっくりと本のページを捲った。今ちょうど、本も面白くなってきた所だ。 もうすでにウォークマンは停止し、代わりにバックミュージックとして流れているのは背後から聞こえる水音と機械音と、堪えきれずに洩れている佐藤の声。 今一人で何をしているかなんて、尋ねるまでもなかった。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |