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その他
オリジナル 幽霊男子と年老いた女子
「私の足ね、もう動かないんだって。これでもう貴方のところに行けなくなっちゃった…」
涙が一滴頬を伝った。泣きたくなんてなかったのに。
指を自分の頬に這わせる。
年相応の柔らかいハリのある肌に涙が染み込んでいく。
「大丈夫。僕が行くから。君はそこで待っていてね」
聞こえた声に大きく頷く。
早く、来てね。


彼と出会ったのは何年前だろう。
よく覚えていない。
身体が弱く病気がちだった私に優しく微笑んでくれた貴方。
そんな大切な貴方との出会いの日を忘れてしまうなんて。
あ、でも一昨年10周年を祝ったような…。
ひさびさにケーキ買って紅茶淹れて。小さなパーティーみたいなのをした。
貴方に会うたび渡しているお花もそのときは特別な真っ赤な薔薇にした。
赤々とした色が生命力を感じさせてくれた。

そんな風に貴方のことを考えながら待っていたら、ぽつぽつと雨が降り始めた。
「――きゃっ」
いきなりのことで驚いて車椅子から落ちてしまった。
「やだ…痛いわ」
車椅子に這い上がろうとしても非力なため、体を支えることができない。
「早く…早く来てよ」
この砂利道は倒れているには痛すぎて、雨は冷たすぎる。
早く抱き上げて大きな腕で力強く抱き締めてほしい。
嗚呼、ダメだ辛い。意識が途切れてしま、う…。
――記憶は途絶えた。


『〇〇さん、聞こえますか!返事をしてください!〇〇さん?〇〇さん!!』
五月蝿い煩い私は〇〇なんて名前じゃないわ。
それにちゃんと私は起きてる。
目を開いて彼を探してる。
あら、いない…?
きっと忙しいのね。ゆっくり待ちましょう。

医者の話によると私は肺炎を患ってしまったらしい。
またか。最近はあまり病気になってなかったから肺炎とかひさびさの出来事だ。
しばらく入院していたら治るだろうけど、彼がなかなかお見舞いに来てくれない…。
「それじゃあ私から行きましょう。会えないなんて寂しいもの」
体調はもうだいたい落ち着いている。
少しなら出歩いても平気だろう。
彼との待ち合わせ場所に向かいますか。

待ち合わせ場所は相変わらず静かな場所だった。
花がいっぱいあって綺麗だ。まあ中には枯れてしまっている花もあるわけだけど…。
「んー来ないわねー」
車椅子だから特に疲れたということもなくしばらく待機。
「やだ…貴方の名前のとこ、ゴミが溜まっちゃってる…今度掃除しないと」
あれ…なんでだろう。
名前に触れたとたん涙が勝手に流れていく。
ハリがない肌に慌てて指を這わせる。最近寝不足だったから仕方ないわね。
自覚したら眠くなってきちゃった…少し寝ましょう…。
寝ると最近はなぜか貴方がいなくなってしまう夢しかみないのだけれど…。

『〇〇県〇〇市にある墓地で女性の遺体が発見されました。女性は80歳でだいぶ衰弱していた様です。繰り返します――』

――ああ、やっと迎えに来てくれたのね。

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