K アドレス消去 美猿 伏見猿比古は、吠舞羅の裏切り者でありかつての親友だった。 『お前のだぁいすきな徴が…汚れちまったなぁ?』 端末の画面の上でゆらゆらと揺れる指は戸惑いながらもノーを押した。 迷うことなくイエスを押せない自分の不甲斐なさに八田美咲は慣れない舌打ちを一つこぼした。 町を歩いていると猿比古が向こうからやってくる。 ちなみに鎌本はバーでアンナと一緒に留守番だ。 「みさきぃ?今日は一人か?いつもついてる三下はどうしたぁ…」 「あ?鎌本ならバーだぜ」 「お守りするやつがいなくて大丈夫なのかよぉ…?」 にやにやとしたいつも通りの笑みを浮かべた猿比古は俺の目の前まで来ると立ち止まった。 「んだよ…それ…あいつがいなくても普通に外歩けるっつーの」 風景を見ないようにさっさと通りすぎようとすると当然と言わんばかりに猿比古が行く手を阻んだ。 「八田…お前はなにから逃げてるんだ」 ふいに聞こえた真剣な猿比古の声は鼓膜を通って心臓に突き刺さった。 逃げるようにして立ち去ったそこで猿比古がどんな表情をして立ちすくんでいたかも知らずに。 「くそっ!くそっ!あんな裏切り者になにがわか…」 言いかけて、止めた。 裏切り者=親友だった過去を消すわけではないだろう。 「……わかってて当然だな。あいつはたぶん今でも一番吠舞羅のなかで俺を知ってくれているから」 俺も、あいつのことを知りたい。 青服に入って変わった猿比古のことも知りたい。 端末から数時間前ににらめっこしたメアドを引っ張り出した。 ――――――――― Kの企画さまに提出しました [*前へ] |