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瞳の奥に潜む可能性 美→(←)猿
昔から他人と目を合わせるのは嫌いだった。
目を見ればそいつの考えていることはだいたい解ってしまったから。
大人なんかは特に読み易かった。騙せてると思ってるやつは結構隙だらけ。

友人と目を合わせるのも大嫌いだった。
友人といっても親友と呼べる類いのやつだが。
ほとんどの友人面してるやつは目が合ってもただニコリと微笑むだけ。網膜に反射したものを見ているだけ。
だからこそ、嫌いだった。誰も自分を見ていてくれない現状が。そんなことをうだうだと考えてしまう自分が。


そいつに会ったのは中学だった。
小学校から上がったばかりのまだ初々しい餓鬼共のなかで一番餓鬼っぽいやつ。
それが、八田美咲。
こいつがどれだけ俺の心を乱したものか。
まあ、今となっては出会いなんてどうでもいいのだが…。

俺はいつも他人と話すときは視線をどこかにさ迷わせていた。
八田が話しかけてきたときも例外なく視線を反らしていた。
そんなある日。なぜか俺と馬があったあいつはいつもと変わらず、話しかけてきて。俺も変わらず、視線を反らしながら受け答えていた。
「なあ。こっち見ろよ。いつも目ぇ反らしやがって」
ぐいっと頬を両サイドから挟み込み視線を強制的に合わせる。
「な、にを…」
あいつの目に映る俺は目を見開いて驚愕した表情を浮かべ、酷く滑稽な顔をしていた。
「なんでいっつも目、合わせねえの?嫌われてるみたいで嫌なんだけど。こんな綺麗な顔が見れないっつーのも嫌だしな」
心臓が、痛い。ドキドキとバカみたいに高鳴っていて。
八田にまで聞こえるんじゃないかってくらい。
「べつにいいじゃねえか…」
お願いだから踏み込まないでくれ。心のなかでそう呟いた。
頬を挟み込んでた手を退けて顔を背けた。
『心を読んだり、読まれたりするのが嫌だった』なんて恥ずかしくて言えるわけねえし…。
でも、そのときの八田のいたずらが成功した子供のような笑顔は男同士だとか関係なしにときめいて。
入学してから結構長い時間一緒にいた気がするけどこんな表情は初めて見た。
たびたび俺に笑いかけてくれてるのは知っていたけど、全然見れてなかったから。
いつも笑顔を向けてくれていたのに見てないことをすごく後悔した。

結局また強制的に戻されて、しばらく目を合わせるとこいつの考えていることはだいたい読み取れてしまった。あいつはあいつで最初は真剣な顔していたっていうのにいまは恥ずかしがって真っ赤になっている。
そんなに俺と目を合わせたかったのか?わかんねえやつ…。

「なあ八田。なんでそんなに俺とアイコンタクトとりたがるの。べつに要らないじゃん。そんなの」
「伏見って意外とばっかだなぁ。アイコンタクトなんてとりたくてとるもんじゃねぇよ。そいつの表情みたいなーって思って顔見ると目が合っちまって自然とアイコンタクトになっちまうんだろうが」
そういうものなのか…。
つか、八田に馬鹿って言われた…。なんかムカつく。でも、不快じゃない。
「そうか」
久しぶりに笑みが溢れた。
クスクスと笑いが止まらない。
なにも難しいことじゃなかったんだ。

――たまには自分から合わせるのもいいかもしれない。

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