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閑話(一)「葉月の災難」
 *今回はAmebaのブログで掲載されている星流さんのデジモン二次創作「デジモンフロンティア02〜神話へのキセキ」とのコラボにおける導入部分のようなものです。星流さんが書かれる本編はこちらからどうぞ。




 刃坊巧は災難を引き寄せる体質を持っている。何を今更かとも思われるかもしれないが、今回焦点を向けるのは、彼の周りにいる人物への影響についてだ。
 彼の体質が周りの人間に与える影響には二つのパターンがある。
 一つは、その人物に起こるはずの災難が巧の持つ不運パワーに引き寄せられて、巧が身代りになるというパターンである。巧本人にとってはたまったものではないが、このパターンの場合周りの人間は災難を回避できるので、その人にとっては非常にありがたいだろう。
 もう一つは、巧自身が引き寄せた災難に巻き込まれる形で、周りの人間もその災難にあってしまうというパターンだ。これに関しては巧自身が回避できたわけでもないので、誰も幸せになれない最悪のパターンだと言っても問題ないだろう。
 今回の葉月の場合、残念なことに後者だった。




 一日だけの休息を経て、一行は西へ移動を始めた。集団の中に図体の大きなオロチモンがいたので、彼の体に他の面々がしがみつくかたちで移動している。オロチモンだけに負担を強いているようにも見えるが、本人はあまり負担に感じていないので問題ないだろう。ほかの面子に関しては楽し放題なので言うまでもない。
「ン? 何かオかシいぞ。ちょッと止マれ」
「えっ!? 何かって、何?」
 のんびりした雰囲気に不似合な言葉がナノモンから飛び出す。わざわざ不安を煽るようなことを言われたので、オロチモンも仕方なく移動を止めた。発言したのが一番理知的なナノモンであるなら尚更仕方ない。
「確かに。どうやらこの辺りの空間の情報が不安定で、空間に歪みが生じつつあるようです」
「駄目だ。さっぱり分からん」
「右に同じ」
「ここが危険だってことー。多少は頭使いなさいよー」
 アンドロモンが異変の詳細を確認し、巧とリオモン以外は現状の危機について理解した。残る二人も葉月に言われてとりあえずは理解した模様だ。
「そウだ。慎重かツ早急に離レるこトをお勧めスる」
「だのう。仕方ないが、ここを離れるぞ」
 ナノモンの提案を受け、オロチモンは斜めに後退を始める。上に乗っている面子も彼の声を聞いていたので、首や体にしがみついて落とされないようにした。……一人を除いて。
「え、何だって?」
 それは巧だった。何かが起こっていいるのは気づいていたが、そちらに気を取られてしまってオロチモンの話を聞いていなかったのだ。
「え? ちょっ、うわっ……!?」
 一人だけ対応が遅れたために、オロチモンの体にしがみつく余裕もない。オロチモンの移動による足元の揺れで足を踏み外してしまった。
「やばっ、このぉっ!」
 だが、そこはあらゆる不運な災難を乗り越えてきた刃坊巧。反射的に、生存本能に任せて腕を必死に伸ばし、オロチモンの体の上に戻るための取っ掛かりを掴む。
「きゃっ!?」
「ん……あれ?」
 だが、掴んだそれは取っ掛かりにするには余りにも不安定で軽いもの……というか葉月の手だった。
 当然葉月に同年代の男子を引っ張り上げる力などなく、さらに言えば逆に道連れになってしまうのが道理。
「えっ、いやあああーっ!!」
 今回も当然、二人仲良く落下し地面へ一直線。二人にはもう成すすべもなかった。
「おい、巧っ!?」
「なんで葉月まで落ちてんのよっ!」
 二人のパートナーは慌てて二人を助けようと追うように落下。ピクシモンの「フェアリーマジック」なら助けられなくもなかったが、葉月まで落ち始めたことで完全に動揺しそこまで頭が回っていなかった。
「これはやばいよー」
 情報が不安定で空間に歪みが生じているなどという不確定要素が多い状況で、巧とともに放り出されるのは非常にまずい。なぜなら不確定要素が多いということは運任せになる部分も多いということ。その中に疫病神と言われる巧が放り出されれば、生じる結果はたった一つ。
「あれ……なんか地面に変な穴開いてね?」
「やっぱり最悪のパターンになるのねー……」
 落下し始めた段階でおおよそ予想はしていたが、実際そうなるのは堪ったものではない。だが、もうどうしようもないのも事実。この疫病神や自分達のパートナ共々巧の言った穴――おそらく空間の歪みとやらだろう――に突っ込んでしまうのだろう。それはどうあがいても逃れられない。だから葉月は空間の歪みに突っ込む寸前、こんなことを思った。
 ――戻ってこられたら、一也をけしかけてこいつを半殺しにしよう、と。


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あきゅろす。
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