Strikers Fire -If Story- 十三頁 「……人が、みな……貴方のように強くある世界は、きっと美しいのでしょうね。然し貴方がそうであるように、私も退けません!」 新たに取り出したスペルカードを、白蓮は宣言する。その発動に衣類に巻き付けた封印式の術式が輝き始めた。 「超人【聖白蓮】──!」 魔術による身体強化を極限まで高める。法力を全身に通し、鋼よりも硬く、剣よりも強く、銃よりも速い。その隣に村紗、一輪も並ぶ。 錨を担ぎ、輪を掲げて入道を操る妖怪。 対するは一人の人間。 「──」 息を吸い、吐き出す。なんと重い空気か、淀んだような、沈んだような仄暗さの中に冷え切ったものが感じられる。 自身の装備を今一度確認する──予備弾倉残り二つ。捕縛用携行銃、弾数一。強化合金製警棒。以上──手に馴染んでいる愛用の銃と剣は確認するまでもない。果たしてそれらが目前の妖怪達に通用するかは不明だが、人の造り上げた物を信じる。 「参ります、準備は宜しいですね。村紗、一輪」 「任せてください、聖」 「いつでも大丈夫ですよ、姐さん」 「そうですか。では──お覚悟を」 ムラサが錨を大きく振り上げて、投げつけた。それに向けてホーウェンが銃の引き金を引く。耳を劈く号砲から射出された弾丸は錨に突き刺さり、小さなヒビを入れて止まった。速度が落ちた事でそこから横に飛んで逃げるだけの余裕が出来る。続けてムラサを狙おうとして、左右から迫る大きな拳に気付く。 「天網サンドバッグ!」 雲山──元は見越入道であったが今は一輪を守る存在となった。大きさを自在に変えられるだけあり、とてもホーウェンの脚力では逃げ切れそうもない巨大な拳が左右から叩きつけられる。 「呆気ないものですね。……え? まだ?」 雲山の言葉に耳を傾けた一輪がホーウェンに再び視線を向けた。 拳が霧散する。その下に隠れていたのは、地面に仰向けで倒れたホーウェン。避けられないと判断し、その場に体を寝かせることで間一髪で回避した。その左手の銃が狙っている。 「くっ!」 人間が妖怪に敵うはずがない。巫女でもない限り。雲山が煙幕となってその照準から逃れる。 「ちぃっ……!」 フッ、と視界に降りる影に一も二もなく離脱。そこに白蓮の蹴りが落ちてきた。当たれば無傷で済まされないだろう。 「はぁっ!」 その場での掌打、魔力を打ちだす発剄にホーウェンの体が転がった。胸の辺りを押さえて咳き込む、相手は待ったなしで攻めてくる。ふと背中に当たる物があった。それを見てムラサが底のない柄杓を持って笑っている。 「地上で溺れる気分は如何?」 「うぉっ!?」 足元に広がる水溜まり──ムラサの錨から染み出した海水。そこから現れた手にホーウェンが引きずり込まれた。 その中は深海のように暗い。咄嗟に息を止めたことで最悪の事態は免れた。 ばしゃばしゃと水飛沫を上げて抵抗を試みる姿を、ムラサは柄杓を口元に当てて微笑みながら眺める。命を奪うまではいかなくても、しばらく沈んでもらう。 「ぷはっ、くっ、またか──!」 水面に顔を出したホーウェンを再び引きずり込む。白蓮がそれを心配そうな目で見ていた。 「村紗、もうその辺りで──」 「!? 姐さん!」 「きゃあ!」 地面に突き立った錨にしがみつき、剣を取りつけた銃がムラサ目掛けて放たれる。それに驚いてスペルカードの発動が止まった。緩んだ亡霊達の手から逃れたホーウェンは続けて錨に向けて引き金を引き、水辺から抜け出した。磯の水が引いていく。 「ゲホッ、ゲホッ……! はぁ、時期外れの海水浴も、乙な物だ……」 口の中が塩辛い、痺れる舌の感覚に不快感が付き纏っていた。口元を拭う。 [*前へ][次へ#] [戻る] |