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Strikers Fire -If Story-
四頁

【咲夜チーム】

「……ふむ」
「あのー、パチュリー様? 私の背中で本を読んでいるのは……」
「楽だから」
「はぁ……そうですか」
 美鈴がパチュリーを背負いながら走る。先行する咲夜と鈴仙の後を追う。

「先ほどから何を読んでいるんですか?」
「……悪魔についてよ。これに載っているかは怪しいけれど」
「どうして今それを?」
「異変の元凶が、彼だとして……聞き出せた情報が余りに不明瞭、不確定で不定形なのよ。聞くたびに変わるし詳細は纏まらないし漠然とした話しか聞き出せないしで、貴方には分からないでしょうね。この胸の苛立ちが」
「あ、あはは……申し訳ありません」
 パチュリーの考えが正しければ、今回の異変はマスターの中にある力の根源。それ即ち、今まで聞いても聞き出せなかったマスターの本質に他ならない。
 そこでパチュリー・ノーレッジはこう仮定する。
 マスター・ハーベルグの能力についての客観的分析。それは炎熱と再生。その点では蓬莱人である不死の姫君と非常に酷似している。だが決定的に違うのは、その技術だ。
 蓬莱の薬による不死身を得た者。だがマスターはなんだったか。
 その身体を魔術と薬物によって極限まで高められた、と話していた。

(魔術の為に犠牲は必要とは言うけれど、私の趣味じゃないわね)
 結果、その実験によりマスターは感情の欠落が見られ、失敗作と言われている。ここまでは本人から聞きだした情報だ。
 そして考察。そも、そうまでして一体何を目的としたのか。魔術は封印式、いわば結界だ。かの大魔法使いが封印されたのは魔界、だというのにマスターはまるで普通の人間のように暮らしている。……訂正、普通ではなかった。

(そういえば、やたら頑丈だったわね……)
 ナイフを弾くような強度ではないにせよ、素手で煉瓦を突き崩す程度の事は平然とやっている。その点で見れば魔術強化の面が強い。魔術防御もかなりの物だ。

(何かを、封印している……? 彼の中に? だとしても何故? そうだと考えれば辻褄は合う。でも何故それをマスターは認識出来ていないの?)
 自分の能力を理解していない。それは何か引っ掛かる。パチュリーは美鈴の頭を叩いて不機嫌そうにしていた。

「い、痛いですパチュリー様」
「美鈴、もう少し穏やかに走りなさい。考えがまとまらないわ」
「そんな無茶な〜」
 そうして、漸く立ち止まった場所に。

「引き返しては、くれませんか。コレはアイツが自分でどうにかする、と言っていた」
 ロン・ツァイシェルが立っていた。その背後に黒い渦を背負って。
 蒼い悪魔の唯一無二の親友。己もまた、普通とは違う境遇に嘆いていた者。

「力づくで、と言うのなら。俺も全力で足止めさせてもらう。恨まないでくれ、鈴仙」
「幻想郷が、呑まれたっていいんですか!」
「そんなはずないだろう! だが、それでもアイツが……」

 ──悪いなぁ、ロン。しばらく一人にさせてくれ。てめえの落とし前くれぇ自分でどうにかすらぁ。

「マスターが、世界を敵に回すなら、俺は世界の敵でいい。例えそれが間違いだったとしても」
「貴方の意思は分かりました。しかし私の用があるのは──」

『咲夜! あの馬鹿さっさと連れて来なさい! この数カ月どこで何をしてるのか全然顔見せないんだから!』
『咲夜ー、最近マスター遊びに来てないけど。どこ行ったのかな?』

「お嬢様のお望みは、貴方ではなく。この異変の元凶たる彼ですのでお引き取り願えますか」
 咲夜の胸には主人が怒り心頭でわめく姿と、悪魔の妹の怪訝な表情。両手にはこぼれる程の銀に光るナイフを携えて。

「──推し通らせていただきます」
「はぁ〜……なら仕方ない」
 ロンの瞳が碧眼から金色に変色する。縦長に切れたその眼は、本気を意味している。

「本気でやらせてもらう。俺の理性が持つまでに、倒れてくれると助かる」


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あきゅろす。
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