Strikers Fire -If Story- 五ページ ──それから夜が明け、今は太陽が昇っている。 正午過ぎの遊技場、娯楽施設としてメジャーなゲームセンターで一人の少女が遊んでいた。リズムを取りながら足下のパネルを踏んでいる。 それをぼんやりと後ろから観察しているのは、マスターだった。 「っと、こんなもんかな。待たせて悪いね、お兄さん」 「いや別に。見てるこっちはこっちで楽しませてもらった」 赤い髪のポニーテール。パーカーを着た少女の名前は、佐倉杏子。 「それで、アタシに話って何さ」 「なに、大した話じゃねえよ。どうせ魔女狩り以外暇してんだろ? だったら少しばかり付き合え」 「まぁ、確かに時間持て余してるけどさ……それにしても随分急じゃない」 「気まぐれだ。勿論魔女狩りするならそっち優先でな」 「そういう事ならいいかな、何か予定とかあるのかい?」 「ねぇよ。適当に歩いてりゃ、その内見つかるだろ」 杏子は少々不安を覚えつつも、マスターと町を歩くことにした。 ──二人の出会いは大したものではない。 しかし、何故だか妙な違和感が胸の中にあった。 一緒に魔女を相手する時は、何故だか息がピッタリ合っていた。 決まって暇な時には偶々見かけ、時間を潰す。 それは、どんな確率だろう。 それが、運命の出会いならどれだけ素晴らしかっただろうか。 だから杏子は、時々不安になる。もしかしたら、自分は夢を見ているのではないかと── (まさかね) そんな考えに首を振る。コレは現実の出来事だ。夢じゃない。 ──こう言うのは恥ずかしいが、自分はまだ乙女だ。恋の一つくらい夢を見る。 そんな事を言うのは、何だか柄じゃない。言うのも気恥ずかしい杏子は、マスターの袖を引っ張る。これくらいのワガママは、神様も許してくれるはずだ。 「どうした、杏子?」 「ん、んーいや。何となく、さ……」 「そうかい」 「……あの、さ。お兄さん」 「あん?」 「アタシ達、どっかで会った事……ないかな?」 「──────さぁな」 「そ、そうだよね。いや、ははっ……何言ってんだろうねアタシは。……何か、さ。不安なんだ」 「何がだ?」 歩き回った町から少し離れた河川敷。その夕暮れに染まった土手に腰を降ろし、杏子はマスターの肩に頭を寄せた。 「家族を亡くしたアタシが、こんな幸せ感じていいのかなって……傍に誰かがいるのが嬉しいんだ」 「なら、いいじゃねえか。いねえ人間の分、幸せになれよ。でなきゃ死んだ奴も化けて出るぜ?」 夢はいつでも理想を描く。そして、目を背けてはいけない現実もまた存在する。 マスター・ハーベルグは佐倉杏子の願いを知っている、理解していた。 だから── だからこそ── 「…………杏子」 「んー? なにさ」 「なんか夢とかあるか」 「そうだね……。魔法少女はやめらんないし、アタシはやっぱ……人の為になるのが夢かな。今でも十分だけどさ。お兄さんは?」 「俺か?」 「アタシだけなんてずるいじゃんか。聞かせてくんないかな」 「そうだな、俺は──」 いつか、きっと叶えられるだろうか? それは叶うことのない、一人の夢。 諦めた夢の残骸を紡ぐ。 「店持って、毎日忙しく働いて、平凡普通な生活送れりゃ大願成就ってなもんだ」 「なんだいそれ? 変なの」 「るせぇな」 ──自分に、平和など似合わない。そんなのは理解している。 だから、夢なのだ。叶わぬ見果てぬ先の理想。那由多の最果て、奈落へ落とした輝き。 己に課した闘争から撤退は、己の全権限を持って断固拒絶する。 [*前へ][次へ#] [戻る] |