Strikers Fire -If Story- 伴奏〜魔に生きる者達〜 見晴らしの良くなった紅魔城図書館、風穴の空いた壁に湯気を出すミニ八卦炉を突き出した魔理沙は息を切らしている。一方でパチュリーは息一つ乱さず、呆れていた。 「魔理沙、あなたに足りない物は戦略よ」 「あー、くそっ。今のはイケると思ったんだが……」 「魔法使い、向いてないんじゃない?」 「なら司書に雇ってくれてもいいぜ」 「貴方みたいな盗賊はお断りよ」 心外だぜ、と呟いて箒に乗って飛び上がる。 まず第一に要塞図書館に感激した。次に観察して感動したが、感嘆の声を漏らす暇もなくパチュリーに防戦一方のまま攻められている。 無駄な広さは毎度お馴染みだが、今回ばかりはそれが有効活用されていた。スペース全体を使って大掛かりな儀式を行っている。 全八ヶ所に設置された魔方陣。付け加えて、安定剤に魔術の加護を付与させられている借り物の剣に魔導書で効果を増幅させた。五行をかたどった配置の魔導書により、その魔力だけでマスタースパークも防げる。 合計四十冊の魔導書を使用した超大型八卦炉魔方陣。その上五行に習った七曜の魔法が魔理沙を襲う。 「エレメンタルハーベスター・遠隔」 金気元素を歯車状にして的外れな方角に飛ばした。そのまま壁に激突すると、隙間にはまる。 ギ、ギ、ギ、ギ……──重く、歯切れの悪い音に魔理沙が何事かと振り向いた。すると、壁の中に埋まっている歯車が連動し、動き始めている。エレメンタルハーベスターで足りない部品を補い、起動する要塞図書館の息吹に冷や汗を流した。 「パチュリー、さっきから何処狙ってるんだ? 私はここだぜ」 「……分かってるわ。だから、あなたをこれから狙うのよ」 図書館全体に響く駆動音。そして、その中央でパチュリーはスペルカードを宣言した。 「火」 アグニシャインで点灯されたランプ。 「水」 プリンセスウンディネで流れる水気元素は水路を満たす。 「木」 シルフィホルンの木気元素をランプで燃やし、同様の風に運ばせていく。 「金」 そして、エレメンタルハーベスターの歯車により起動する図書館。 「土」 それは結晶を細かく砕き、あらゆる元素を混ざり込めて至るところに流れる。 パチュリーの設計した紅魔城。いつもの猥雑に散らばった図書館を一から建て直し、八卦に準えた。更に五行の印を隠している。 本来ならマスターを相手に使う予定だった。普段であればこれだけで持病を発する。だが、今は違った。 『……封印された大魔法使い?』 『そうだぜ。使う魔法も私達とは全然違う種類で』 『その話、詳しく聞かせてもらえないかしら』 魔理沙には感謝すべきだろう、あの異変の話を聞いていなければ今ごろ力尽きている。司書を遣わせ、様々な道具を集めた。今も身につけているマジックアイテムも一工夫加えている。 美鈴から気の流れについて聞いた。自らの体に五大元素を取り込み、七曜を司るマジックアイテムで体を一時的に強化、その魔力は紅魔城図書館と連動していた。 仕掛けが進めば進むほど、パチュリーの体と魔力は衰退どころか増幅されていく。 ここまでやらなければ勝つのは困難とされるマスターは魔法使いではない。しかし、彼は並の魔法使いよりも魔道に通ずる。 何故なら、その魔に生きる者として学ぶまでもなく、本能的に識っているのだ。人では踏み込めない未知の領域に棲む獣だと、パチュリーは思っている。 魔を制すには同じ魔を持たなければならない。それは及ぶ領域ではなかった、だからこそ自分は今以上の成果を求めた。 挑戦するのは蒼い悪魔ではなく、いつもの鼠なのが唯一惜しまれる。それもいい、日頃の鬱憤をぶつけさせてもらおう。 「──“賢者の石”」 魔理沙は背筋に氷柱を刺されたような気分で鮮やかな五色に輝く宝石を見上げていた。特大の、優に身の丈を超える未曾有の威圧感を感じながらも、胸が熱くなる。 「は、はは……! コイツは楽しみになってきたぜ、パチュリー!」 才能なんて物は、九割の努力と一割の閃きで乗り越えられると信じていた。理不尽な実力に挑むのは何もこれが初めてじゃないのだから。 紅魔城に漲る魔力の恩恵を受けるのは何もパチュリーだけではない。もう一人の蒼い騎士もまた、その魔力を使いマスターと激闘を繰り広げている。間接的にではあるが、パチュリーの魔法は確かに圧倒していた。 「くそっ……!」 壁に埋まった身体を引き抜き、開いた傷口も塞がずに魔道に棲む獣が吠える。激痛で顔を歪めるどころか狂喜乱舞していた。この激戦を愉しむ自分がいる。そして、障害に殺意を抱き、爪を鳴らし──手を止めた。獣の本能を理性で抑えるのはこれで何度目か。 紅魔城が鳴動する錯覚にファルドは左腕を観察して笑みがこぼれる。存外悪くない仕事を引き受けた物だ、紫には感謝してもいい。 「……これならもう少しばかりは無茶出来るな。ケルベロス、MCS作動」 『了解しました』 「あーあー、くそったれが。いい加減にしろよ。夜が明けちまうだろうが……」 より強く、より強靱になる鋼にマスターは舌打ちすると右手の爪を唸らせた。欠け、損傷した拳は幾度も負け続けている。 それでも──それでもたとえ、愚行と言われても自分にはこれしかなかった。 結果は変わらず、ただ生傷ばかりが増える。爪は割れ、肉も裂けて血が掌を朱に染めてても、拳を作り出した。黒い爪が震える。愚鈍なまでに痛みに耐える事が出来るのは、内に秘める灼熱地獄。 「一応、お前も広域次元犯罪者として手配されてる。ここで捕縛させてもらうぞ」 「冗談じゃねぇ……!」 「ああ、本気だ」 ファルドが再度、番犬に魔を取り込ませた。無尽蔵に溢れる魔水を浴びるように飲み込んだ番犬の主もまた、猟犬だ。 魔力の昂ぶりが絶頂に達したその時──突如として霧散する。 「……なに?」 むせ返る芳醇な魔の香りが嘘のように消え、番犬が空回りした。 ファルドの思考にあるのは術者の消失だったが、マスターは違う。思わず腹から笑いが込み上げてきた。 「くっくっ、はっ……はは。アッハッハッハッハァ!」 「何がおかしい」 「くく……流石だぜ。流石だよなぁ、『悪魔の妹』ってのはよぉ! 最ッ高にハイッて奴だ!」 破壊音と振動の接近、そして天井が瓦解して登場したのは巨大で無骨、荒唐無稽を体現した剣を持ったフランドールだった。 数分前──。 「あはは、アハハハハハ! ねぇパチュリー、何してるの? ねぇねぇ〜、私も混ぜてよ!」 「……フラン、どうし──」 紅魔城図書館に乱入してきたフランは八卦の剣を取り囲む魔導書、その結界から何もかもを『破壊』した。他の玩具には目もくれずにそれだけを狙い、奪い取る。パズルを組み立てるように、不安な手つきで剣を束ねていく。 「出来たー♪ ちょっと試し切りしてもいい? いいよね! わーい♪」 パチュリーは即座に防御障壁を張った。振りかぶり、全身で振り下ろした一撃は直線上の本棚を一つ残らず瓦礫にする。フランドールは大剣の重量に振り回されて転ぶが、無邪気な笑い声をあげている。その滅茶苦茶な破壊力に魔理沙は鳥肌が立った。 「……私、今までよく生きてたな」 「あー魔理沙だ。遊びに来たの? またパチュリーの本を借りに来たの? 面白い? ねぇねぇ〜」 「あーあー、あー……質問は一つずつで頼むぜ」 「えー……でも私は忙しいからまた後でね♪」 立ち上がると魔理沙に質問責め、だがすぐに壁を壊してダイナミックに退室していく。道中のアスレチックは遊んだら壊れてしまったので帰りは真っ直ぐ地下に向かった。階段を降りるよりも天井から一直線に破壊した方が楽しいし速い、そう思いすぐに実行して──。 フランドールは、現在に至る。 (チッ、まずい事になったな……) 内心で舌打ちするファルドをよそに、向こうは絶好調だ。飛び付くフランドールを受け止めてメリーゴーランドまでやるマスターは、装備を渡される。 「オーライ、隊長さんよぉ。こっから先は狂気の大逆転とさせてもらおうじゃねぇかぁ!」 「まったく、まるで悪夢だ。寝る暇もない」 [*前へ][次へ#] [戻る] |