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Break Force特別編:God Breaker
六ページ
「まぁなに、とりあえず形成不利ってのは明らかなようなんでちゃちゃっと撤退しますか」
「……そうだな」
 ロンの視線が周囲を彷徨う。ティシャの姿は無い。どうやら避難したようだ。それにひとまず安堵する。

「そうと決まれば」
「させるかよ!」
 黒龍は撤退を許さない。自転車に跨がったままのスロウドに電撃を放つ。光速のそれを、容易く避けてしまったスロウドが小さく声を洩らした。

「あちゃー、やっちったい」
 天鋼の目の色が変わる。悩み事は今、解決した。臨戦体制に移行して構える。

「黒龍、我も手を貸そう。どうも一般人では無いようでな、腕に覚えがあると見た」
「そうかい。なら、行くぜ」
 面倒な事になってしまったが、撤退の意思に変更はない。
 遭遇戦が撤退戦に変わっただけだ。

「うぇー、面倒じゃないですかやだー……」
「文句言っても変わらな」
 パァン!

 ──発砲している。
 誰が?
 消音装置も無しに。
 スロウドが、自動小銃片手に硝煙を漂わせていた。

 音速の弾丸は天鋼へ。
 事もなくその小指の先ほどに小さな弾丸を、素手で弾いた。

 この場における重要事項。
 一つ、ロン達は撤退する事が前提条件。二人を振り切らなければならない。
 二つ、力量は黒龍>ロンである。
 三つ。移動手段は自転車、又は徒歩であり、光速に近い移動手段を持つ黒龍から逃げ切る事。

 以上を踏まえた上でスロウドはこの場から離脱する手段を考察する。
 結論、ほぼ無理。

 ──“ほぼ”

「仕方にー、ロン。俺があの美人さんどうにかするんでタイミング見計らって自転車二人乗りしようか」
「逃げ切れるのか」
「どうにかするしか無いぜぃ」
 それをどうにでもするのがスロウドだ。馬鹿だが、馬鹿なりに出来る事はある。

「戯けめ、その程度で我が身を討てるとでも?」
「いやぁ無理無理。鋼なら尚更にー」
 相変わらず軽い。だが、狙いは正確に人体の急所を目指して引き金が引かれる。

 天鋼は避けようとしない、弾丸を弾き、掴みながら一歩。また一歩と進む。

(鋼……。装甲さえ打ち貫ければ)
 然し、ロンは天鋼と拳を交わす暇はなかった。既に黒龍と打ち合いを始め、現在はどうにか耐えている状態だ。

「さて、汝の得物ではここまで距離を詰めた場合の対処は厳しいな」
「クロスレンジじゃねー。お姉さん肉体派?」
「うむ、然り。我の得物はまた別にあるが基礎となる体術も我が得物ぞ」
 悠長な会話をしながら自転車から降りて手荷物をハンドルに引っ掛ける。

「死出の旅支度は良いか」
「いやぁ未練たらたらですわー」
 天鋼の拳が奔る、狙うは人体構造上における最重要器官。大脳及び頭蓋への損傷、無論致死レベルの力を込めてだ。戦場に置いて加減など無い。

 銃を持つ相手は例外なく遠距離からの一方的な攻撃を可能とする。近距離において、最早照準を付けて引き金を引くまでの動作は重りにしかならない。
 天鋼の一撃は容赦なくスロウドの頭蓋を粉砕するだろう。
 銃を使うのであれば、距離を離さなければ。
 引き金を引くのなら、狙いを定めなければ。

 その最たる例外が、スロウド・マクウェルの会得した技だ。

 防ぐつもりか、左手を動かす。だが、鋼の装甲はそのまま破壊力に繋がる。生身で受け止めれば腕の骨格もろともに頭蓋を打ち抜くだろう。

 空いた左手は天鋼の拳に添えて、スロウドは一歩。大きく踏み込む。肩が触れ、胸が当たるほどに近い零距離。
 拳を引き戻す天鋼の思考は左手に向いた。フックさえ打てば良い。
 然し、それをスロウドの右手──銃を持つ──は肩口を押さえて防いだ。

(なんと!?)
 人体構造上、肩の関節を押さえられた場合に腕の動きは半減する。
 深く沈めた体勢から、肩を後ろに回した手で掴んで引き倒す。

 背後に引っ張られるようにして天鋼がバランスを崩し、その支点を失った一瞬に下へ下ろす。
 己の自重が仇となり、そのまま仰向けに倒れた天鋼はピタリと狙いを定める銃口と視線が合う。

「ガンナーだって肉体派ぜよ?」
 弾丸は鋼を撃ち抜けない。それには戦車の装甲を貫く弾丸が必要だ。
 だからスロウドは、天鋼の網膜と三半規管へ衝撃を叩き込む。

 “閃光弾頭/フラッシュバレット”

 射出する小型閃光手榴弾、それを至近距離から放たれたのならば鋼とて視力・聴力に支障を来す。

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あきゅろす。
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