魔法少女リリカルなのはLOST Battle 八ページ 海から視線を外し、振り返る青い髪の管理局の男性。微笑みながらクルヴィスと向かい合う騎士。 「何処にだ?」 「分かってる癖に…」 「あぁ。分かってるよ…」 左腕が無い訳じゃない。ただ袖を通さないだけだ。 「…だけど、何で帰るか思い出せないんだよな」 「……」 「それに、海の上に何かなかったか?」 「………何も、ありませんよ。ありませんでしたよ」 「そうか…」 ファルドは…一部の記憶を無くしていた。楽園の事、悪夢の事、死闘の事。二年間苦しんで来た夢から覚めた様に、忘れていた。 自分が何故戦っていたのか。 自分が何と戦っていたのか。 その事を忘れていた。 「機動六課か…お前の部隊だっけ?」 「俺の管轄内の部隊ですよ」 「そうか」 「…送っていきますか?」 「いや……」 クルヴィスの誘いにファルドは首を横に振る。 「悪いが俺は、管理局には戻れない」 「何で…」 「俺は、地上で戦い過ぎた…お前達と」 「そんなの、幾らでも俺が隠しますから気にしないで下さい」 「隠す必要は無い」 ファルドは、古代遺物を奪っていた事ともう一つ。 自らの父親と戦った事までは覚えていた。 いっそのこと、それを含めて全部忘れてしまえば楽だった。 「なら俺に、どうしろと…」 「…全部、何もかも無かった事にするんだ。俺の存在、組織の事、戦った事も何もかも全部記録を消せ」 「……」 「クルヴィス…お前は誰にも会わなかった。それだけだ」 静かに波の音が響く。 「俺に、ファルド一佐のデータを全て削除しろと?」 それは、ファルドの存在を管理局から抹消する事になる。つまりは、クルヴィス自身の手で殺す事と同義だ。 「…そんなの…出来ませんよ、俺は……」 「クルヴィス…俺からの最後の命令だ。頼んだぞ」 「…待って下さい」 取り出したのは写真。それは、最後の戦いが始まる前に撮ったツーショット。 「それは…?」 「アンタの忘れ物です…」 手渡された写真を受け取り、視線を落とす。栗色の髪のサイドポニーテールのエースと並んだファルドの姿が写っていた。 「なんだよコレ、まるで恋人同士みたいだな…何か恥ずかしい。いつ撮ったんだよ」 「企業秘密です」 「そうか」 ファルドはしばらく写真を眺め、懐にしまい込む。代わりにポケットから煙草を取り出してクルヴィスに渡した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |