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魔法少女リリカルなのはLOST Battle
二ページ
(……取り敢えず向こうに連絡取ってからでも遅くない。皆に話すのはそれからやな)
ばらまいた書類から天井に視線を移すと、吹き抜けの天井が夜空を透き通らせて幻想的な風景が目に入る。
 星と月以外に、空には別な惑星が写っていた。その光景は写真のように薄っぺらく感じたが、はやては夜空に『黒き衣の青年』の事を思う。

「……一番は彼の引き抜きなんやけどなぁ。無理……やろな」
その小さな呟きは天井を越えて空の暗闇へ消えていった。









「…つっ…はぁ、はぁ!……くぅっ………!」
ヴィータとの戦闘から戻ったファルドの呼吸は荒い。顔を流れる汗、まるで体力を使い切ったような消耗をしていた。
隠れ家に戻った直後、膝が折れて四つんばいのまま体が動かす事が出来ない。

やがて大きく息を吸うと、バリアジャケットを着たまま大の字になって仰向けに倒れる。
 深く息を吐いて、ケルベロスを投げ出す。そしてジャケットから私服に変わるや否や、ポケットから煙草を取り出してくわえ、吸い始めた。

「……くそったれが…」
誰に向かって言ったのかは本人しか分からない。髪を掻き上げ、ヒビ割れた天井を見つめる瞳は何処か虚ろだ。
やがて煙草を指で挟み、手を投げ出して目を瞑る。

暗闇が映る視界には戦ってきた管理局のエースの顔が浮かぶ。

「……随分慕われてんな、八神はやて……間違いなくお前の周りの奴等は俺が認める“エース達”だ」
そんな呟きが人知れず廃墟に響くが、死者の沈黙に呑まれて消えた。

次に眼を開くと、そこには獰猛にして狂暴、凶悪な獣の光を宿した瞳が生き生きと輝き、口元を笑みで歪めている。

「そうでなくちゃ楽しくねえ……」

『楽しんでいるようだね、番犬の主。調子はどうだい?』
と、その時。眼前に液晶モニタが現れて若いドクターが映される。
いつもの様に不敵な笑みを浮かべ、値踏みする様な顔でこちらを見ていた。

「普通だ…データは後少しといったとこだな。二日もあれば充分だ」
『機嫌も良い様で何よりだよ』
「で、何か用か……」
『……疲れている様子だから知らせるだけしておこう。キミは私の“目的”を知りたがっていたね』
「ああ……」
『後日、私の研究所へ来てくれ。見せたい物がある…それでは、ごきげんよう。番犬の主』

そして、通信が切られるとファルドは憎らしく虚空を睨む。
煙草をくわえて体を起こすが、身体を蝕む痛覚に咳き込んだ。

「がはっ…げほっ!……ぐ…っ」
服に隠れた脇腹には、子供の拳程ある痣が出来ている。だがファルドは治療する気は全くない。
医療器具が無いのもあるが、何よりファルドは他人に身体を触られるのが嫌いだった。

その所為か身体には様々な生傷が跡になって残っている。

「…いつからだ……他人を信頼しなくなったのは……」
《約二年前からです。六年前の貴方はまだ笑っていました》
「……二年、か…早いもんだな」

天井に届かない左手を伸ばし、開く。手の甲で輝き続ける黒い宝石はファルドに落ちる事はない。
そのまま左手で視界を塞いで全身の力を抜いて再び横になる。

体重が倍になったような感覚と疲れが一気に押し寄せ、それらを改善する睡眠欲が出てきた。
煙草を最後に一度吸い、紫煙を吐き出して握り潰す。

掌が焼ける音を聞き、右手を投げ出す。
グシャグシャに潰されたタバコの火は完全に消えて、怨みの火傷をファルドの掌に残して役目を終えた。

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あきゅろす。
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