魔法少女リリカルなのはLOST Battle
九ページ
青年が空に飛び立った。風になびく黒い衣服が、悪魔の羽根のように揺れている。
「……さっさと済ますぞ」
《分かりました》
目前に広がる管理局員の動きを見極めながら、青年はデバイスを構えた。
「…………」
《お疲れ様です、主》
熾烈な航空戦が繰り広げられ、今の砂漠には管理局員達が倒れている。
震えるように体を動かしているが、魔力ダメージによって思う様に動けないようだ。
かすり傷一つ負わなかった青年はデバイスを肩に担ぎ、その場を去ろうとしていたがその内の一人が立ち上がる。
「ま……待、て…」
「………」
心底呆れたようなため息を吐くと、振り返りながら銃口を向けた。
迷いも決意もない、ただ運命に流されるような脱力感のある瞳。
「黙って寝てろ…」
向けた銃口に、六角形に二重円の陣が描かれる。
《Straight a Shot》
デバイスからの男性電子音声が、組まれている魔法プログラムを読み上げ、闇のような黒い魔力弾が傷ついた管理局員を吹き飛ばした。
砂漠の上をみっともなく転がる局員を冷たい視線で見放し、デバイスを後ろ腰のホルダーへとしまうと再び空に上がり何処かへと飛び去って行く。
「今から戻る。途中管理局からの邪魔が入ったがそっちは片付けた」
《分かった。追手はいるか?》
「いいや、今は居ない。このままドクターに渡してくる」
《了解》
移動しながらの時空間通信を終えると、更に加速して青年はその世界から消えた。
「……確かに。ご苦労だったね、お茶でも飲んでゆっくりしていくかい?」
「断る」
「それは残念だ……いいものが手に入ったのだがね」
文化レベル0世界から去った青年は、いつも通り暗闇に包まれた廊下でドクターに回収した品物を渡す。
渡し終わり、帰ろうとしたがどういう気紛れか突然雑談を始めたドクターに対し、青年は苛立ちを隠せない。
「……いい加減帰るぞ」
「ん?…その前に、次の仕事だ。そちらはいつでも構わない」
話を切るように、青年へと封筒が渡される。
厚みがあり、中の書類は十枚近くあった。
「…分かった」
「楽しみに待っているよ。君の活躍をね」
漆黒のバリアジャケットを翻し、踵を返す。
青年の背中を見送りながら、手に持った水晶を見比べるドクター。
「やはり君は素晴らしいよ……それでこそ私が選んだ“最高の素体”だ」
足音にかき消される程に小さな呟きを漏らすと、青年とは反対方向に歩く。
砂漠での事件が管理局に見つかったのはそれから二日後の事だった。
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