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Break S.Novel
断罪の鐘は悪徳の咆哮
 剣戟、ひたすらに剣戟の応酬。中には弾丸も交えて奏でる楽曲が鳴り響く。しかし終わらない。長く続き、繰り返しサビを暗唱する二人の楽器は凶器だ。楽曲も狂気に歪んだ殺戮の路上ライブ、だがその道に人は居ない。通り過ぎる人は命の危機に曝される一夜を知らずに眠っている。
 そう。“これ”が──これがこの九番地区で繰り広げられる“日常”だ。狂った街で一晩続けられる剣戟の舞踏。
 夜空に軌跡を描く紅と蒼の奏者、立場上最悪な二人の人間関係は複雑怪奇。不思議にも互いに憎み合う事もなく、恨んだことは一度もない。
 それでも。そう、分かり合えず譲れない一線が二人を別ち、争わせる原因は何か。──理由はない。ただ“違う”だけだ、立場も理由も信念も年齢も体格も権力も何もかもが違う。
 一点、合致しているのは“人間”であることだ。
 一人は出世を繰り返し、実力相応の立場と権力を上から与えられた正義と恩に殉ずる者。
 一方は犯罪を繰り返し、底知れぬ実力で裏の一大勢力に名を広めた悪魔と称される獣。
 得物が牙を剥く。鋼は火花を散らし、顔を赤くして激情に身を委ねて燃える。
 鋼の顎が火を吹く。それを弾くのもまた鋼だ。銃口は息吹(ブレス)を続けて吐き出す。

「チッ!」
 獣は舌打ち、黒の外套を翻しながら避けた。常人であらば不可視の領域に達した火薬の熱を浴びた弾丸を避けたのは、蒼い青年が人間でありながらヒトを辞めた証拠に他ならない。
 それを追い詰め、追い込む狩人じみた感性で立ち向かうのはヒトが辿り着ける極限の可能性だ。
 好機と見た紅の狩人は、決して慢らない。相手は獣、ヒトの姿をしている蒼の獣だ。
 自分の最適距離以上に踏み込まず、最大級の一撃を叩き込める位置を決して譲らない。

「逃すかッ!」
 咆哮、吼えるのは銃口と共に紅の狩人だ。二発、三発、四発、間に剣戟を振るう。更に五発目で弾薬が尽きた。

「ホーウェンッ、テメエが信じた“正義”は人間一人殺してでも守らなきゃならねぇモンなのかァ! 答えろ、老い先短い税金食らいの連中に慕われたアイツを殺した理由を!」
「ッ、私の一存では決めかねる! だがそれでも救われた恩に忠義は尽くすだけだ!」
「それで……!」
 蒼の獣が想うのは、自分を何の悪意もなく治療した少女だ。罪もなければ罰せられる権利もなかったはずの、医者になろうと夢を語った名も知らない少女は命を救いはしたが奪われた。
 “悪意”の獣を救った、と“正義”の二文字の下にその命を奪われて散った。

「それで、テメエは……テメエ等は何人殺せば気が済むんだよ! お前は違うはずだろうが、お前が望む“正義”と“平和”は血溜まり作る必要があんのかぁ!」
 命を奪っているのだ、尊き生命を刈って金勘定している。だから同じように奪われる覚悟もしていた。──だが、だがなんだ!
 一度として傷つけられる理由のない少女を殺した正義!
 誰かを助けたいと献身的に笑顔で願った少女の命を奪う理由は、なんだ!

 ──“正義”は、誰も裁けないと言うのか!

「ふッざけんじゃねえ……ふざけんなよ……! 認めて、たまるか! 何の組織だ。何の為の武器だ、何の為に集められた連中だ! 国際武装防衛機関は、“何だ”ホーウェン!」
「……命を尊く、人の為の組織だ。だからこそ私は止めた、だからこそ君に関わるなと訴えた!」
「テメエの実力不足の言い訳なんか聞く耳持たねぇよ……!」

 ──違う。正義は裁けないのではない。抗おうとする者も、逆らう者も居なくなってしまったほど世界は淘汰されてしまった。

 正義は“裁ける”のだ。

「俺は誓うぜホーウェン、納得いくまでテメエ等国際武装防衛機関の連中にケンカを売ってやらぁ。一人残らずだ……一人残らず、俺に牙を向けた奴等を死体で返却してやるッ!」
「本気か、マスター。なら私も加減はしないぞ」
「始めからしてねぇくせによく言うぜ、隊長さんよォ……!」

 それに抗おうとする堅牢な意志と、それに逆らおうとする強固な“悪意”があれば──。
 その“正義”に立ち向かえる。
 全てを贖罪出来る綺麗で残酷な二文字は“裁ける”のだ。

「ホーウェン、覚えとけ。犠牲で成り立つ血生臭い平和と秩序より、人間の欲望は何より尊いってなあッ!」
「くっ、オォォッ!!!」



 ──今宵も、一夜の剣戟が街に響き渡る。


〜あとがき〜
確か深夜テンションで色々吹っ切れた結果がこれです。何故書いたあの日の兎よ!


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あきゅろす。
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