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Break S.Novel
獣の騎士道
「マスター、大丈夫?」
「……触んな」
 伸ばした手を、思わず引いた。その目が拒否している。その傷口に触れることを、痛む体を。血を吐き捨ててため息を一つ。
 泣き出しそうな程悲しい顔をして、血だらけの腕に抱きつく。突き飛ばされると思っていたティナだったが、何もされなかった。

「……触んな、汚れんだろお前」
「……別に、いいよ。だって」
「そっから先は言うんじゃねえ。俺が好きでやったことだ」
 王国が開いた国家交流舞踏会、その機を狙った連合国の襲撃。無論、王国第一王女であるティナに矛先は向けられた。それを一つ残らず撃退したのはマスターだ。他の騎士団は政治的主要人物の護衛に向かっている。表向きに、ティナは参加していない事とされていた故に護衛が疎かになっていたのだ。

「マスター……ごめんね」
「謝るな鬱陶しい。曲がりなりにも俺は騎士だ、これぐらい命賭けさせろ」
「でも……」
「ティナ、何度も言わすな。俺が、好きでやったことだ。別にお前は悪くねえよ、分かったら離れろ。そのドレス勿体ねえだろうが」
「……うん」
 ゆっくりと名残惜しそうに離れたところでマスターは立ち上がろうと力を入れた。全身余すとこなく走る激痛に歯を食い縛り、開く傷口から流れる血も構わず壁に寄りかかる。

「くそったれ、なんで正装しなきゃ入れねえんだよこの舞踏会場は! 嫌がらせかキングの野郎!」
「仕方ないよ。だけど……似合ってる、マスター」
「嫌味か? ティナ……」
「えっ、なっ、なんで……?」
 もう二度と着る事はないと思っていた。コレを着る資格を自分は持っていない。この、騎士服だけは二度と──。

(……悪気は、ねえんだよな)
 自分は少し穢れ過ぎる。だが、それでも。それでも、だ──生涯全てを賭けて守らないとならない命が望むのなら、そんな事はどうでもいい!

「ティナ」
「えっ……?」
「……ドレス、似合ってる」
「ぁ──……うん♪」
 もう二度と、立ち止まるか。
 そんな暇も余裕も無い。

“待っている”と、兄はそう言った。何十何年先になろうと待っている、なら必ず追い付いてやろうと決めた。

 もう二度と──誓いは裏切らねえ!

「行くぞ、さっさと合流しねえとな」
「ティシャちゃん達は……」
「ロンが居れば問題ねえ」
「マスターが言うなら、大丈夫だよね」
「ああ、任せろ。ティナ」
「ん?」


「……お前は、必ず守る。だから……なんだ、その……離れんなよ!」
「うん……ありがとう、マスター」



〜あとがき〜
だれおまと言われても不思議ではない短編(笑)


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