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Break S.Novel
とある獣の退屈日和
 マスターは、自分の生い立ちを話さない。それは例え妹だとしても、生涯約束した姫君であろうと決して。親友にすら話していないトップシークレットの極秘情報。
 世界の悪意と人間の欲望によって破壊された人間。それを一度も恨んだ事はない。許した事もない。だが、受け入れた。
 悪意ある人間ならば、何をしても許されない。それは裁かれるべき罪だ。
 それが欲望ならば、何をしても満たされる。それは望むべき欲求だ。
 自分に従い、世界に逆らい、正義を否定して悪徳を美徳にする。それでも彼は人間だ。
 何をしても、満たされなかった。なんでも出来るからこそ、満たされない欲求があった。無い物ねだりは人の常、だがマスターは何も欲しいと思わない。

 否。──否である。ソレは人だ。人ならば、ねだる。駄々をこねて手段を選ばす、ねだり、勝ち取る。しかし何を──?

 なんでも出来る。人に出来ないことだろうと。
 なにも願わない。なんでも手に入るから。
 しかし、人に出来る事が出来ない。それは簡単な話だ。なにもしなくても出来る、なにもしないからこそ出来る事だ。どれだけ拒もうと、逆らえない終点。

 ──死。そう、死だ。生からの離脱。今生の別れ。何度繰り返し願い、思い、行ったか。
 首を刎ね、頭を砕き、心臓を貫いた。残るのは激痛と憎悪と赤い涙。何度繰り返したか。
 愚かで愚鈍な人間が願う不死身。何も知らなければ幸せな事だ。だが一度知ってしまえばソレは地獄すら劣る生涯の責め苦となる。
 ひたすらに孤独。何処までも終わらない生涯。それを満たす欲求は、無い。何一つとして有り得ない。限り有る命だからこそ満たしたい欲求は、限りが無くなれば満たせなくなる。
 マスターは、それを理解していた。だから人を愛さない。愛されたいと願わない。
 幸せとは、なんだろう。それを感じるのは何時だろうか。やりたい事はいつでも出来る。思った時にでも勢いで。

 だから今日という一日でも、マスターはこう呟く。

「あー、暇だ」
「課題やれよ。期限明日だぞ」
「終わったしなぁ…」
「はぁ!?」
「俺がダラダラと無駄に過ごすと思っていたのか、ロン」

 過ぎた時間は戻らない。なら、過ごす時間を戻す必要がないようにするだけだ。出来ないはずがない。

「時計の針を戻したい……!」
「見せてやろうか?」
「死んでも断る!」
「だろうな」

 やはり今日も繰り返す。

「……あー、暇だ」
「嫌味か……!」


 齢十八の、高校生は呟いた。



〜あとがき〜
気まぐれに書いた短編……だった気がする。大抵シリアス物はそんなもんです

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