Break S.Novel
ある家の日常風景
「ただいまリョウカー。おーい?」
マスターが自宅に帰って来るが、メイドからの返事はない。いつもならひょこっと顔を出して来るのだが。
リビングの様子を見ると、ソファーに座って行儀良い姿勢のままうつらうつらと寝ていた。手元にはテレビのリモコンとすっかり冷めたお茶、それと買い物に行く予定だったのかメモも置いてある。実に器用な物だ。両手を太ももの上で組み、絶妙なバランス感覚で背筋を伸ばしたまま昼寝をしている。
「…………」
階段を昇り、部屋で着替えたマスターは冷蔵庫の中身をチェック。あるだけの材料で適当に夕飯の用意を済ませるとソファーで時間を潰す。
メイドカチューシャで犬耳を押さえ、一般人を装ってはいるがそれでもやはり気を弛めたり驚いたりすると耳が跳ね起きる。
「とりゃ」
「みゅ」
ぴょこん。頬を突いてみるだけでこのようになるから治したいらしいが、このままで良いとはマスター談。カチューシャを外し、耳を撫でてみるとくすぐったそうに体を揺らす。
倒れそうになる体を、頭ごと寄せて支えてマスターは点けっぱなしのテレビをザッピングするが夕飯前の時間帯はドラマの再放送かグルメ番組くらいしかない。当然興味無し。
作れる材料ならばいいがどこもかしこも一流品では話にならない。むしろ財布に優しい一般食材で一流料理を作ってこそのグルメではないのかと以下略。マスター談。
マスターが頭を撫でながらテレビを視聴していると、バランスを崩して頭を寄せてくる。キッチンからの香りで目が覚めたのか、リョウカは薄らと瞼を開けた。そして自分の状態を把握するまでたっぷり時間をかける。
「……あ、おかえりなさい」
「疲れてんなら適当に休めよ」
「す、すいません! あの、夕飯の用意……」
「もう済んだ」
「でも、材料の方は……」
「飯食ってから買いに行く」
「……はい」
しょんぼりした様子で目を伏せていたが、自分の状況をようやく把握したのか「ひゃわぁ!?」と悲鳴をあげた。顔がたちまちゆでダコになり、身動きがとれずに固まっている。マスターの胸板に手を当てて身体を離そうとするが逆に触れる面積が増えて戸惑っていた。その間も頭は撫で続けている。
「……ぁ、あの……頭」
「んー? リンファと同じシャンプー使ってんのに不思議だな。なんか匂い違うんだよ」
「そう、ですか?」
「これでも鼻は利く方だぜ?」
「同じシャンプー使ってるんですけども……」
こっそりマスターのも使っているのはリョウカだけの秘密だ。
「お兄さん、リョウカさん、ただいまー♪」
「おかえりなさいリンファちゃん」
「リンファ、夕飯食ったら買い物行くからなー」
「はーい」
途中寄り道した義妹も帰ってきたのでマスターは立ち上がり、キッチンで夕飯の用意を始める。リョウカも手伝おうとするが止められた。
「たまには俺がやる。最近バイトで菓子ばっかだったからなー。まともに料理作ってねぇんだ」
「最近作ったのは……」
「極寒地獄激甘ストロベリーパフェ」
器が氷、受け皿はドライアイス。スプーンも氷で塩をまぶしてさらに冷やし、かき氷のがマシなレベルの寒さが待ち受ける誰得なスイーツ(笑)
「……美味しいんですか?」
「ネタ料理」
「今度作ってみていいですか、そういう創作料理」
「あー、今度な」
この一言と挑戦が、新たな阿鼻叫喚の地獄絵図を描くことになろうとはまだ知る由もない。
〜あとがき〜
初めてだよオリジナルオンリーでリクエストとかきたの!(感涙)
トランプの強制敗北さん、ありがとー!
最近ソリティアに挑戦しては負け続けているアメリカ兎。4/19日
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