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ヴァルくろ!
蒼い悪魔

「こんなのが運命だなんて、俺は認めないからな!」
「ライの運命の相手であることは認めてください藍紅様」
「断固拒否!」
 俺の決意に便乗しないでくれ。認めないから、仮にそうだとしてもマジでガチに徹底抗戦する。
 しかし、こんな状況を解決手段があるはずもない。
 こんな化け物を相手に出来るのは同類であるマスター先輩くらいだろう。失礼かもしれないが、事実だ。

 だってほら、現に鎧野郎が蹴り飛ばされている。

「よぉ、キリング……! てめえに聞きてぇことは一つだけだ」
 怒り心頭、怒髪天な勢いでブチ切れてるマスター先輩は鬼より恐い。裸足で逃げたい気分だ。

「兄貴はどこだ!」
「……ふん、知らんよ」
「だったらぶちのめして聞き出す。答えは聞かねぇ!」
 ごく一般的な思考だとそれは拷問だと思いますがマスター先輩、そんな俺を無視して取り出したのは──黒いPASS。

「マスター先輩、それ……」
「身の上話は今度だ。PASS CORD:メギド」
 目の前で火柱に包まれるマスター先輩、だがその中から出てきたのは業火も涼しい武装をした先輩だった。

 両手に篭手を着け、両足に鋼鉄のブーツ。黒いコートを翻して肩を慣らしている。
 篭手から伸びる巨大な釘は何となく予想出来るが、まさかとは思う。

 立ち上がる鎧に駆け出す。
 体勢を整える前に篭手と鎧が火花を散らした。その勢いのままに振り回して、右手を押さえる。

「アーマーブレイク!」
 予想通りだった。マスター先輩の篭手から伸びる巨大な釘が発射されて軽快に吹っ飛んでいく鎧野郎。
 頭がイカレてでもしなければ両手に“パイルバンカー”を装備しない。
 ビルに突っ込み、更に追い討ちでもう一発。姿が見えなくなるくらいに吹っ飛んだのを追おうとして、マスター先輩が足を止めた。

「紫乃原。おとなしくそこで神谷と待ってろ、すぐ終わらせる」
「……はい」
 ──もしかして、助けてくれたのだろうか。あいつを遠ざけて。
 そんな事を考えていると、マスター先輩の背中が遠くなっていく。



 ──マスター・ハーベルグ。
 黒い鎧、キリングは記憶の中からその名前を引き出していた。
 見違えるほどに逞しく成長している。
 何度も戦場で拳を交わした。まさか、この日本に居るとは──。

(……“蒼魔”か、なるほど)
 何年前からだろう。その名前が渡る戦場で耳にするようになったのは。

 瓦礫を押し退けて体を起こす。

 そこには陽炎を纏う憤怒の悪魔がいた。その瞳に殺意を抱き、敵意を剥き出しにして。

「元傭兵組織所属だったな……」
「邪魔だから自分で潰して来たけどよ、未練もねぇ」
「ふっ……蒼魔と呼ばれるだけはあるか」
 最後まで言わせることなく、マスターの灼熱の拳がキリングと火花を散らす。

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