ヴァルくろ! 聞け。救いと嘆きの声を PASSを見ながら、マスター先輩達が戻って来るのを待っていた俺達三人だったが。 「あ……」 「どうした黄泉?」 何か見掛けたのか、黄泉がPASS販売センターの入り口を指差す。後ろ姿しか見えなかったが、ボサボサに伸びた金髪の黒服が入店していくのが見えた。ライは見えなかったようで首を傾げている。 「今の人がどうか──」 したか、と言うより早く爆発が起こる。視線を外した一瞬で何が起きた? 音を立てて崩壊していくビルに現実味が感じられなくて、思わず俺はその様子を観察していた。 何故だろう。なんでだろうな、どうしてこうも簡単に俺の望んでいた平和が崩れていくんだ。何もかも黒いPASSが悪いのか? 瓦礫になって積み上げられていく残骸から粉塵が舞って、道路だけでなく町を走っていく。瞬きする暇もない。 「っ──、なにが……?」 「なにがも何も、何かPASS販売センターが爆発して……」 俺は、足音を聞いた。人々の悲鳴の中で何故かその音だけがはっきりと聞こえる。逃げ惑う歩みじゃあない、ソイツのそれは──! 「……ぁ」 言葉が洩れていた。喉の奥から、絞り出したようなか細い声。 ──もし、この世界に化け物がいるのだとしたら。そいつはきっと世界が生んだ絶望だ。 粉塵を、瓦礫を、悲鳴を背景にしながら威風堂々と歩む黒い鎧。ソイツは本能でヤバイと感じた。 「……紅」 なんだよ、アレ……。なんなんだよ、アレは。 「藍……、藍紅!」 「黄泉?」 「何してるの、早く逃げないと!」 「逃げ……」 ああそうだ。逃げよう、あんな奴と関わるのもこれ以上俺が巻き込まれるのも御免だ! もうこりごりだ、俺の日常が壊されるのは。もう──嫌だ! ……、だけど。俺は聞いてしまった。 「お母さん、お母さぁん……」 母に置き去りにされた子供の声を。 「誰か、助けてくれ……!」 怪我をして、見捨てられてしまった人の声を。 ──俺は、立ち止まる。手元に握る“コレ”は、何だ? 「藍紅、早く!」 「ッ、クソッ! 畜生……!」 なんでだよ。なんで、どいつもこいつも揃いも揃って『日常』をぶっ壊してくるんだ。 今泣いている子供は、親とただ普通に楽しみたい一日だっただろう! 今怪我をした人は、何の罪もない不幸な人だろう。だから、なんで──! 「クソッ、畜生……畜生!」 「藍紅!」 ああクソッ、分かってるさ黄泉。お前は俺に危ない真似をするなと言いたいんだろう。だけど、俺はやっぱり嫌だ。もう、うんざりしてる。 「藍紅様!?」 「PASS CODE、クサナギ!」 いい加減にしろ、いい加減にしてくれ! 「……む」 「いい加減に、しやがれぇぇぇ!」 ──もうこれ以上、俺は壊されてたまるか! [*前へ][次へ#] [戻る] |