ヴァルくろ!
崩壊の兆し
結果、敗北。部長の人間離れした運動神経に俺はもう身も心も打ちのめされた気分である。
「いやー、余裕過ぎて欠伸が出ねえ」
「人間ですか貴方!?」
「正真正銘類人猿から進化した人類の一人だがどうかしたか」
もういいです、十二分に貴方が人類から進化した新人類である事はわかりました。だからお願いします、これ以上は止めて下さい。マジでガチに心が折れます。
「藍紅の取柄がなくなっちゃったね」
「やかましゃあ!」
「泣かなくてもいいじゃないか」
「お前の一言がとどめになった」
「介錯はいるかい? 楽になれるよ」
「なりたくねぇよ!」
息の根を止めようとする黄泉はもういい加減敵なんじゃないかと思い始めた。なんなのコイツ。
そして、漸くお昼。皆で仲良くファミレスかと思いきや、そういう訳にはいかなかった。
「マスター、昼飯は何処で……」
「……部長?」
マスター先輩が何か見つけたのか、道路を挟んだ先の路地を見ている。何かと思い、視線を辿ってみたが雑踏しかなかった。だが、何か確信があるのか突然走りだす。
「マスター先輩、信号赤ですよ!?」
「アイツ……、くそっ! スロウド、ロイ! 回り道してマスター止めるぞ!」
「ロン、俺も行くぞ」
車のクラクションが鳴り、輓かれるかと思いきやワイヤー無しでスタントアクション。車のフロント踏み付けて道路を渡ったかと思えば全力で走って行く。ロン先輩達も慌てた様子で行ってしまった。
「紫乃原君、出来ればそこを動かないように!」
「えっ、あっ……はい」
なんだろう。さっきマスター先輩はかなり怖い顔をしていたような気がする。気のせいならいいが、あの親の仇を見るような目はなんだったのだろう。
「にしても部長、無茶するよな」
「そうだね。映画観てる気分だったよ」
「保険降りますかね?」
「ライ、生々しい話題は辞めて」
確かに何台か事故ってるけども、警察に連絡した方がいいのかコレは。騒ぎが大きくなる一方で、俺は別な建物を見ていた。
何の事はない、只のビル。『WPA』公認のPASS販売センターだ。俺はふと思い出し、ポケットから黒い長方形の電子端末機器を取り出す。
「……なぁ黄泉、黒いPASSって販売してんのか?」
「普通は売ってないね。どうやって入手したんだい?」
「ライも持ってます」
黄泉のPASSは一般的なグリーンカラーの量産品だ。だが、俺とライのは黒い。
「いや、なんか親父が旅行先で見つけたから送ってきた」
「相変わらず面白いお父さんだね」
「ライは誕生日プレゼントに貰いましたけども」
この黒いPASSについて、全く知識なんかなかった。別に必要なかったと言えば許されるのは、今日までの話だっただろう。
──“アイツ”に出会うまでは
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