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ヴァルくろ!
漆黒の王と紅い狼

 黒い軍服に身を包み、防弾ベストを装備した警備員が自動ドアの入り口に向けて銃を構える。一般的な軍隊に配備されている物ではなく、特殊部隊の扱う特異な形状のサブマシンガン、P90と呼ばれる代物だ。
 建物のロビーは広く、その奥に向かって伸びる通路は一つだけ。二階の窓ガラス張りの廊下にも数名待機しているが、こちらはアサルトライフルのM4カービンを構えて侵入者を待ち伏せしていた。

ガラス越しの自動ドアに黒い人影が歩み寄ってくる。馬鹿正直に、真正面から堂々と、威風堂々と近づいてきていた。入り口に待ち構える軍隊が見えていないはずがないにも関わらず。
 自動ドアが一枚開く。二つ目のドアを手で押し、ロビーに敷かれた絨毯が重苦しい音を立てる。

「掃射!」
指揮官の号令で一斉に引き金が引かれ、耳鳴りがするほどの轟音がロビーに鳴り響く。
 その音に紛れ、二階のガラスが破られた。気付いた頃には既に遅い。

 空薬莢が転がり、加熱した銃口と弾丸の煙幕が入り口の空間に充満していた。相手が人間なら挽き肉では済まされないオーバーキルの鉛玉による銃のパレード。

──ただそれでも、足音が静かに響く。

 白煙の中で、一点の黒が歩く。黒い鋼の具足と黒い鋼の篭手を身につけ、黒い鎧兜を纏う漆黒の騎士がいた。否。それは戦場を歩む一騎当千の王である。

「…小兵が」
握り締めた拳を開くと零れ落ちる弾丸はカラカラと音を立てて足下を転がっていく。その転がる弾の中には潰された物に混じり、両断された物もあった。
更に足下に投げ込まれる手榴弾。それを見て眉一つ動かさず、拳を振り下ろす。

 地響き一つ、くぐもった爆音が鳴った。それだけだ。

「くっ…!」
次いでマガジンをリロード、再度構える警備部隊だったが紅い影が走る。武器を両断され、更に一閃。次々と崩れ落ちる。

「…おいおい、キリング。さっさと済ませろよ」
「当然だ」
 拳を引き、腰を捻り、膝を曲げて踏み込む全身のバネで打ち出す拳の弾丸。容易く距離を零にする空砲に撃たれた指揮官は壁に体を打ち付けて倒れた。防弾ベストすら貫通した衝撃で強制的に武装が解除される。

「…化け物がぁ…!」
「おりゃ」
ゴツンと鞘で眉間を突き、刀を肩に担いで欠伸を洩らした。紅い髪の短髪、赤いハチマキに赤いシャツ。紅一色に両手の包帯だけが白い。
 通路の奥に消えた後、建物が震動した。次いで爆発音と電気が消える。重い足音が戻って来ると、二人はすぐに建物を後にした。

「次は何処だ?」
「……ああ、次は──」

建物の名前は『WPA北欧支部』


「日本だ」
「随分いきなりじゃねえか」
「いい加減、支部を潰すのも飽きた」
「そうかい。んじゃ行こうか?」

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