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ヴァルくろ!
戦術研究部
「…………」
 寝ていた。ピクリとも動かない位に静かな寝息をたてている。どうすればいいんだ、コレは。

「あ、マスター先輩じゃないですか」
やぶの中に片腕突っ込んでアナコンダ引っ張り出そうとするライに俺は思わず倒れそうになる。指が僅かに動き、上半身を起こしながら机の足をどけて目を押さえて欠伸を漏らしていた。

「ふぁ〜ぁ……あー、なんだお前等、もう放課後か? よく寝たぁ…」
もしかしてこの人、ずっとここで寝てたのだろうか。あり得る、十二分に可能性はあった。眠気が残っているがその目つきの凶暴たる眼差しは潜むことなし。
どうやらマスター先輩一人のようだ。

「いくつか質問するけどいいか、お前等」
「お金ならありません」
「黙って話聞けよ。…どっかの部活に入ってるか、紫乃原」
「えっ、いやまだですけど…」
「ライも入ってません。面白くなさそうなので」
「僕もまだ決めてませんね」
「ほう……?」
成る程、と呟きながら不敵な笑みを浮かべるのは本当に勘弁して下さい。本気で怖いですから。

「達人の話通りか…」
(…緋神先輩の?)
「単刀直入に言うぞ。ここの部活に入れ、以上」
「…………はい?」
「…あの、何部なんですか此処」
「お前等、いっぺん廊下に出てドアの上確認してこい。今すぐだ」
 言われたままに三人でドアの上を見上げた。そこにはプレートに黒く書かれた文字、恐らく部活動の名前なんだろうが……これは、部活動なのか?

「……戦術研究部?」
部室(?)に戻り、半眼でこちらを睨むマスター先輩とテーブルを挟んで立つ。

「何部だったか言ってみろ」
「戦術研究部…ですよね?」
「ああ、戦術研究部だ」
(どんな部活だよ…)
内心ツッコミながらあれこれ想像してみるが一向に検討がつかない。雰囲気的にミリタリー的な匂いがする。

「入部しろ、以上」
「いや、説明も無しに入れと言われても…」
「お前はバスケ部に何をする部活なのか尋ねる底抜けたバケツの脳ミソか?」
「ひでぇ言い様だ!?」
この人容赦無さ過ぎるだろ。ライのような行動的じゃなくて暴言的な意味で。

 ──コンコン。ドアを叩く軽いノック音、そして間もなく開けられた。

「おいマスター、カバン忘れてるぞ──っと、ゴメン。新入生?」
 なんで男子の制服着てるのか一瞬だけ本気で疑う位、その人の髪は長い。結い上げても腰まで伸びて揺れていた。
何というか、爽やかな女性みたいな印象を真っ先に受ける。

「ロン、説明よろしく。俺は寝るから」
「くたばれ、永眠する前に説明しろよ」
「死に腐れ。部活の説明に決まってんだろうが」
「誰がいつ決めたんだ」
「さっき俺が決めた。んじゃ頼んだ、ぐー」
暴言の応酬、しかも満面の笑みで行われる会話。普通だと思った俺が馬鹿だった。この人の周りにはこんな人ばっかなのか。

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