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ヴァルくろ!
藍紅の真髄



──教室に戻り、俺は青ざめた。

 五時間目の授業が終わり、机の中に教科書を突っ込んで違和感を感じて取り出したのは一枚のプリント。そう、俺にとって人生を左右すると言っても過言ではない紙切れ。まだ半分も埋まっていないソレと時間を確認する。

──残り八分。

 俺は、鬼となろう。修羅になろう。仏すらも斬り倒す悪鬼となり、極悪非道を尽くしてでもこれに生涯を捧げる覚悟だ。俺は、鬼となろう。
全てを捨ててでも、今この瞬間だけは魂を燃料に駆け抜ける。そうだ、俺は鬼になるんだ。

「藍紅──」
「俺は鬼になる。絶対だ、いいか絶対だ。何があろうと今の俺は万物不当森羅万象一騎当千の猛者をも薙ぎ倒す鬼だ、修羅だ、全身の血管を千切り捨てても成すべき使命、運命なのだ。俺はやるぜ、俺の宿命だ、人の未来を切り開く希望の一戦此処に在り──」

「次、体育なんだけど着替えないの?」
「俺は神様を生涯憎しみで殺す事を今この瞬間から誓った。さあ着替えるか」
「…いつになく切り替え早いね」
もう嫌だ。俺はもう吹っ切れた。間に合わない。間に合うはずがない。ファルド先生に土下座する覚悟で提出は遅れる。なんでこのタイミングで体育なのか、今日は厄日だ。もう厄年だ。



 本日の天候、晴れ。場所、校庭。種目、サッカー。コンディション、良好。青いジャージを纏い、今俺達はクラスメイトと敵対する非情な運命に立たされていた。

「黄泉、お前とまさかこうなっちまうとはな…」
「そうだね…嘆かわしい事だ」
「だが、勝負は勝負!」
「情けは無用!」

いざ──!

「キックオフ!」
 体育の先生の笛の合図で、校庭は戦場となる。その最前線に立つのは──俺だ。そして、相手が防衛ラインを築く最中を単独で駆ける。足下で蹴るのは、例えれば爆弾だ。そう、敵の本陣に叩き込み致命的なダメージを与える起爆剤。それを阻止しようと迫る左右の二人、だが甘い。

「スポーツ四十八式サッカー流の真髄、見せてやるぜ!」
 爆弾を足で挟み、踵で打ち上げながらターンしつつ相手の背後を取る。放物線を描き、落ちてきた球体を頭、胸と受け止めて第一防衛ラインを突破。

続く第二防衛ライン、正面に一人。俺は足を止めて餌を目の前に垂らす。相手が辛抱堪らず動き──今だ。
靴裏で転がし、爪先に乗せたまま脛を使い固定して回転。相手が外した隙を狙い、膝から太ももまで一気にバネを解放。右足には未だ爆弾を固定、失速と同時に解除して最終防衛ラインへ。

相手は三人、だが正面は二人だ。しかし甘い。甘すぎる。

「唸れ、七つの技を持つ虹色の足ぃ!」
 狙いは一つ。ゴールの角だ。俺は足を振りかぶり、左側を狙ってシュートを放つ──のはフェイントで全力で左足を狙った右側のゴールの角に叩き込んだ。

「ヨッシャア、先制点!」
「試合開始から三分経ってないのに、相変わらずスポーツ馬鹿だね藍紅は」
「ふっ、負け惜しみめ」
勉強では黄泉に全敗の俺が言っても負け惜しみとか言わない。俺はもう体育しかないんだ。
言ってて情けなくなってくる。

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あきゅろす。
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