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ヴァルくろ!
恐怖の呼び出し

 一時間目の終了後、俺は休み時間にプリントを書いていた。ノートで穴埋めの答えとフェイントを織り交ぜた選択問題を解く。
問題数が多いが、そこは時間を掛ければ問題にならない。俺は今日だけでプリントを二枚も書かなければならない。片方は放課後までの制限時間付きだ。

「藍紅、真面目にすると天変地異が……」
「やかましい、俺は生まれ変わるんだ!」
「成績で勝たれたら僕はどうすればいいんだい?」
「生涯告白された回数じゃ勝てないから心配するな、黄泉」
古傷が傷む。くそ、なんで思い出した俺は。あんなぬか喜びからの株価大暴落、全世界オイルショックの絶望なんて忘れるべきだ。そうだろう、黄泉。

「言われてみればそうだね」
時々お前を本気で恨む時がある、今がその時だ。血涙流してでも呪い殺してやりたい。寿命の半分と引き換えに死神を派遣出来ない世の中って不条理だ。
 何やら教室がざわついてる。いつもの雑談ではなく、何か違和感を感じた。そんな事はどうでも良い、俺はプリントを書かなければならないのだ。

「紫乃原って奴は居るかー?」
「…………」
 視線をドアに向けるとそこには蒼い髪の二年生。学ランのボタン全開で目つき悪いガチガチの不良の方が俺をご指名だ。その右手首の赤いリングに札がぶらさがっている。

「ちょっと話あるから来い」
「…えっ、俺?」
「お前だ、さっさと来い。眠いんだよ」
案の定呼び出し食らった。まさかカツアゲじゃないだろうな、そう思うとメチャクチャ恐い。

「放課後此処に来い、以上」
 廊下で渡されたのは一枚の紙切れ。受け取って広げると地図が書いてある、意外と細かい。三階の一室に丸が付けられている。

「ああ、お前の友人も連れてな」
「…………」
「心配すんな、別にリンチにしたり金を貸せって言うわけじゃねぇから」
「いや、違和感無さすぎて怖いです」
というかそんな台詞を素で吐かないで。背筋が凍る。
 手を振りながら去ろうとする先輩の名前が廊下に響き渡った。やけにガタイの良くて制服のサイズを間違えてるのかと思うくらい筋肉隆々の方がのしのしやっと来る。身長はおいくつですか、少なくとも百九十はあるぞ。

「マスター! てめえ、よくもうちの部員を…!」
「あー…何かしたっけかなー? 覚えてねーなー。居たっけかそんなのー」
(うぉぉい!? この人めっちゃケンカ売ってらっしゃるよ!)
一年生の廊下で揉めないでいただきたい。みんな恐々としながらも野次馬根性に負けて覗き込んでいる。俺はそそくさと教室に退散した。

「あの人柔道部の部長だね。三年生の」
「そうなのか?」
「……藍紅、少しは学ぼうという気にはならないのかい?」
「ならんな」
だって大抵の場合は黄泉が知ってるし、別に知りたいと思わない。という訳で例の如く教えてくれ黄泉。

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