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ヴァルくろ!
人生最後の平和
「藍紅、生きてるかい?」
「…ウラギリモノメ」
「金属を擦り合わせたしゃがれた声で言われても困るよ」
 それから黄泉に声を掛けられるまで俺は死んでいた。少なくとも、呼吸はしてなかったと思う。いや、無意識のあまり記憶にない。

「もうお昼なんだけど?」
「……何だとぅ!?」
俺の意識は急激に覚醒した。一気に冴える脳が映し出すビジョンには腹を空かせる哀れな俺の姿が見える。
椅子を蹴り飛ばし、再び俺は走った。購買までの道を駆け抜け、階段を飛び降りて地下の食堂に着地すると膝で衝撃を吸収。指を着き、クライチングスタートでスムーズにダッシュする。



「……黄泉、お前のそれは嫌がらせか?」
「心外だね藍紅。僕がそんな意地悪な人間に見えるかい?」
「俺の被害妄想が止まらないんだが」
 あれだけ頑張ったのに俺の机の上に置かれた戦利品はあんパンと紙パックの牛乳だけ。どこの張り込み捜査中の刑事だ俺は。牛乳大好きだけども。
それに対して黄泉は親の作った弁当。しかも冷凍食品一切無しのオールハンドメイド。なんかその辺に黄泉の母親はこだわりがあるらしい。昔、新鮮な魚を買いに港の朝市にまで行った人だ。

「母さんに藍紅の分も作ってもらうように頼もうか?」
「おばさんにそこまで世話になってたまるか」
「じゃあ自分で作る?」
「全力でお断りしとく。俺はパンで良い」
「パンがなければ?」
「……米食うか」
うん、最悪おにぎりだけでも作っておこう。さすがにそれぐらい俺でも作れる。
育ち盛りの学生にパンだけはさすがに辛い。主食おにぎり、副食パン、惣菜牛乳。

「よし、コレで行こう」
「主食おにぎり、おかずにパンとか考えてた?」
「なぜ分かった」
「声に出てたよ。藍紅の悪い癖」
「治さないとな」
「分かりやすくて僕は嫌いじゃないけどね」
「わかりづらいお前の思考も嫌いじゃないぜ俺は」
十年間もお隣さんの付き合いをしてるんだ、そうでなきゃ困る。一方的に俺が。なんか理不尽だけど仕方ない。

「そういや黄泉、お前PASSって持ってるっけ?」
「突然どうしたのさ」
「いや、何となく」
「持ってるよ。一般的なグリーンカラーの」
 そう言って黄泉が取り出したPASSは深い緑一色のカード。普通は緑一色。警察とかは白と黒のパンダカラー。

「お前の限定武装ってどんなのだっけ?」
「スナイパーライフル、藍紅もよく知ってるじゃないか」
「最後に見たの二年前だしな…」
 中学時代の部活がサバイバルゲーム部だった。貸し出し、又は個人で持ち寄ったPASSで旗取り、生き残り、チーム戦を行う。当然、火器類が主体だった最中で俺はナイフとハンドガンという装備で特攻隊をしていた。

「あぁ、懐かしいな…あの頃の戦場が…放課後に流す青春の汗」
「張り詰めた緊張感で流れだす冷や汗だったけどね」
「それがいいんだろう」
「青春の汗とは言い難いんじゃないかなぁ……」
そんな思い出話に華を咲かせながら本日のお昼休み終了。さぁ、午後の授業を頑張るか。

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あきゅろす。
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