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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
夢集い。混沌の螺旋──V
「戻ったか、神風。どうだ」
「他愛ない、何も変わらん。烏合の衆よりは歯ごたえはあるがな」
「それは重畳」
「……龍師範よ、お前は何故こんな真似をしている」
「何故か、と。貴様が是非を問うか。働きに免じて答えてやろう。
 我は求め訴えたり、弱者ではなく強者だ。力ある者だ。我が配下となり、手足の代わりとなって嬉々と玉砕するような者だ」
「それでは只の矢と変わらん! 仲間を集め募ると言うのなら!」

「仲間? 勘違いをするな神風。我が求め得ようとするのは仲間ではない。手駒であり奴隷であり、同時に優秀な兵士だ」
「その目的の為にどれだけの犠牲を出すつもりだ」
「弱肉強食の理なれば、自然淘汰もまたその摂理に然り。弱者は強者の血肉となるがそれは覆すことの出来ぬ宿命よ、我が下に辿りつけぬ人間などどうなろうと構わん」
 神風がそれに食って掛かろうと斬鉄剣に手を掛けた。

「我に反旗を翻すか、お前が! 人間風情が! 自惚れてくれるなよ、手駒の分際で!」
「──……!」
「“此処”で、我が眷属達に囲まれて挽肉となるか? ものの一刻もかからん。お前の猶予は二つに一つだ。黙って従えばよい」
 全ての元凶を目の前にして、自分に出来る事は何もない。神風は人間だ。この暗黒に包まれた空間は龍師範の腹の中も同然であり、此処に足を踏み入れる事は己の命は握られたも同然。果たして、誰がこの化け物を退治できるのか。

(許せ、トウハ。我は……余りに無力だ)
 所詮は人の身だ。達し得る高みなど人の域を出ない。神風は拳を震わせて暗闇に佇み、恐怖に耐えるしか方法が無かった。無謀とも言えよう、あの日出会った時点で神風の命運は目の前にいる人の姿を真似た化け物に握られている。
 甘い誘惑に甘美な罠、それに自分は遮二無二頷いてしまった。

「何が目的だ、龍……」
「痴れたこと。希望を余さず喰らい込むことよ。我が悠久の時を掛けた目論見を瓦解させたあの者達のな。忌々しくも我が手足と配下共だけではどうにも足りん。故に、貴様ら人間の可能性とやらに期待した」
「それは如何ほどのものだ」
「なに、たかが砂塵の一粒でも足しになれば上々だ」
 言ってくれる、神風は鼻で笑い飛ばす。

「まぁなに、直に気付くだろうよ鈍感共も。しかしあの者を相手に来るとは思わんがな」
 それがクレイモアの団長であると言う事に気付くのに多少の時間を要した。

「後々障害となると思い故郷諸共に消し飛ばしたはずであったが──よもや一度ならず二度までも我が筋書きから逃れるとはな、想定外だ」
「……二度?」
「一度は同胞共を“軽く”本能的にしてやっただけのこと。疫病風の如く伝染し、やがては全てが死に至る病であったが……それを、自らが血族を手に掛けて止めるとは思いもしなんだ。二度はその脅威性を誇張して人間の恐怖心を煽っただけよ、勝手にやったことだがまさかあそこまでとはな」
 それを舞台の傑作でも思い返すように笑う龍師範に、やはり神風はこめかみを引きつらせる。まるで弄んでいた。人の命を、運命を玩具のように掌で転がして。

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