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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
夢集い。混沌の螺旋──U
 医務室を後にして、深く息を吐き出す。その足音が遠ざかってからファルドは目を覚ました。

「────」
《主、起きていたのなら……》
「…………ああ」
 目尻から涙が一筋流れ落ちる。胸の虚脱感と全身にのしかかる脱力感。右手を握りしめてみるが力が籠もらない。
 自分は父親だけでなく、自分に飛び方を教えてくれた教官も失った。次元犯罪組織クレイモアの手で。──それでも、怨恨の意思は驚くほど胸の内にはなかった。

 ──お前は、もう少し自分の幸せを考えろ。この大馬鹿野郎が。

 自分が聞いた、最期の言葉。

「……ケルベロス」
《はい》
「……最期まで付き合ってくれるか」
《勿論です。私は貴方の左腕ですから》
 快い返事にファルドは「そうか」、と小さく答える。

(……シルフィ教官。すいません、俺は自分の幸せを見つけるのに、今しばらく寄り道をさせてもらいます)
 どうしたって自分の事が二の次になってしまう。ファルドは重症だな、と思いながら再び眠りに就いた。



 悪夢の檻に身を置いたグレイ達クレイモアは許可された施設の一部を歩いて回る。出入り口を通ればすぐに研究室、そこでは広大な空間でしきりもなくそれぞれの分野の研究者、技術者たちが作業に没頭していた。
 奥を見ればシャドウが両脇にスペースを空けて整備を受けている。バスターはまだ帰還してこない、もはや技術者たちは生存は絶望的だと思っていた。
 ここでは灯りが少なく、時間の経過を忘れそうになる。もうここにきて何日になるのか、外は静かな物で騒ぎの一つ起きていなかった。ここが中心地である事はバルムンクの言葉通りらしい。
 ルドラを含めた一部の団員はミッドに向かわせている。

「スィービー」
「……?」
 この数日、呆然と日々を過ごしていたスィービーにグレイはデバイスを渡した。それはここの技術者に依頼してデバイスの使用者登録を初期化した物であり、形見でもある。
 受け取ったスィービーはしばらくそのデバイスを──イプシロンを眺めていた。

「お前はアイツの弟だろ、持っとけ。アイツが……ダルガは俺達の家族に違いはねぇけどよぉ、血の繋がった家族はお前しかいねぇんだからなぁ」
「……ああ、うん……分かってる……」
 静かに、涙しながらスィービーは俯いて返事をする。仇討ちは考えてない。戦うべくして散った兄の為に。




 ──その最下層、龍師範は椅子に腰を下ろしていた。
 これだけの騒乱でこちらに気付く様子はまだない。ならば、と手慰み程度に地上の景色を一変させてやろうと龍師範が手を動かす。
 山が現れた。森が騒いだ。海が踊った。沼が溢れた。平地が続いた。多種多様な風景が悪夢の檻を中心として断片を散りばめる。その上々な出来に満足したのか鼻で笑った。


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あきゅろす。
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