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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
檻の中で──X
 慣れない機動にバスターは姿勢を崩す。各部に埋め込まれた姿勢制御のバランサーは正常に作動し、下部のバーニアを噴出させて平衡を保つ。
 いつぞやの各部位に埋め込み、体勢を整える為に開発した物だったがそれの再利用といったところだろう。本人としては機能してくれれば問題無かった。
 青空を突き抜ける一機の怪物、速度を緩める。シグナルは二つ、先行していたシャドウが遅れを取っていた。

《シャドウ、掴まれ》
《背中を借りるぞ、バスター》
 リフレクトラウンドから跳躍、突き出た推力ユニット上部に足を着けて身を低くする。繋がれたコードの中を流れるのは純粋な魔素。それに指向性を持たせて推力として放出している。装甲表面を流れるように蠢く光はその魔力の輝きだ。

《目標、捕捉》
 バスターの超遠距離狙撃を可能とする網膜ユニットが遥か前方を進むライダーの背中を捉える。ブレイクカノンでの狙撃も可能だが、バスターは更に接近した。その加速にシャドウが危うく振り落とされそうになったが、無事なようである。

《なに? これは、バスターか……?》
 背後から急接近する信号、だがその異形な姿はかつての同胞と思えない。おぞましい、一時期とはいえ自分もかつてはアレと同じ場所にいたのだから。ライダーは小脇に抱えたカプセル状の物体をソニックウインドのタンクにセットする。

《──ライダー、それがお前の意思なら俺は引き止めはせん。落ちろ》
《生憎、まだそういうわけにもいかん》
 魔力反応をキャッチ、振り向く暇もない。速度をそのままに森の上を走る。身体をずらした瞬間に掠める砲弾の土砂降り、思わず顔を上げた。推力ユニットの下部から突き出しているのは小型の砲塔、それがライダーを捉えている。

《チィッ!》
《逃すか!》
 両肩の大型武装ユニットが展開、脚を前に突き出すように制動しながら質量兵器を発射する。一度上昇したかと思うと、急速に転換してライダーへと迫るその数、およそ三十。
 弾頭に組まれた簡易誘導装置がターゲットを認識、一斉に装甲を廃棄。

《な──!? クソ、機械の身体だと思って好き勝手やってくれる!》
 推力である魔力を全てカット。魔力の閃光が放たれる中をライダーは全速力で掻い潜り、木々の隙間へと身を滑らせる。

《まだか、まだ──起動しないのか……!》
 四方八方からは着弾した誘導弾が爆発を起こしていた。三体のシグナルは常に送受されている。身を隠した所で意味は無い。

《そこか!》
 ブレイクカノンを保持するフレキシブルアームを動かし、ライダーの直線状の進路を砲撃で塞ぐ。そのルートから逸れたライダーに降り注ぐ魔力の爆撃。その刹那の減速を、指揮官機たるシャドウは見逃さない。

《天涯比隣の友、と思ったがそうもいかんか。さらばだ騎兵》
 リフレクトラウンドでの短距離跳躍、高速処理が可能とした先回り。右手の出力を調整されたカゲギリがライダーの右脚と共にソニックウインドの車輪を一刀両断する。
 後は、派手に崩れる音を聞く──無数の部品が地面を叩く。

《シャドウ、まだだ!》
《──!? 悪足掻きをしてくれる!》
《ユニゾン!》
 浮いた身体が地面に着く寸前にライダーはソニックウインドとのユニゾンを果たし、滑りながらも再び走行を開始する。
 バスターは止まる事が出来ない、速度を緩める事は出来ても停止出来ないままその逃走劇を見届けた。
 ライダーが奪取したのはバスターの『グラウニー』に搭載予定となるはずだった跳躍システム。やや大型だが、それでも次元世界間を飛び回れるだけの能力を持つ事が出来る。

 ──RIDER...LOST

《……》
 消失した反応に二人は黙した。あれだけの損傷を負いながらワープするなど自殺行為に等しい。

《……ひとまずの任務は達成。クレイモアの元に向かうぞ》
《ああ、了解した》
 シャドウは無残に刻んだ傷痕を眺めながらバスターと共に次なる任務へと赴く。

 ──それは、機械らしい事務的な挙動で。


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