リリカルなのは-Beautiful Fantasy- 夜天の星空──U 「あー、どっこら……あぁぁ……」 「年寄り臭い。背筋を伸ばせ」 「シャキーン」 「口だけではないか」 「俺に任せてシグナムさんは下がっていいですよー」 「……そうする」 何か不満そうにシグナムが去り、クルヴィスが肩を鳴らして背筋を伸ばし襟を正す。 「さて、俺は柳クルヴィス。君は?」 「ミズキ・シンファー。十九歳。フリーランスの魔導師。この自己紹介三回目なんだけど?」 「そりゃ結構。単刀直入に言う、管理局に入局しない?」 「却下で」 「じゃあ仕方ない。拘束するけど文句ないね? よーしオッケー万事解決、お疲れっしたー」 「汚い手口だ。それが管理局のやり方かよ」 「そう。これが俺のやり方、嫌悪するなり侮蔑するなりしてくれて構わない。俺も暇じゃねーし、野良犬に餌やって暇潰してる時間ないの。オーケー?」 「あー了解了解。なんならそこらへんで適当に降ろしてくれたらいいよー。あとデバイス返して」 「却下で」 はははと能面の笑みを見せるクルヴィスとミズキ、その下でドロドロとした感情が渦巻いている。トウハはそれを傍観していた。 「やだわぁこれだから管理局ってのは……組織の権力振りかざして高圧的に迫ってくるから嫌いなんだよぉ……」 「うーわすげーカチンと来たわーこにゃろうめ。その組織の人間前にして言うかね」 「あーいくらでも言ってやるよぉ、お高くとまった管理局ってのが俺は気に食わないんですー」 トウハが黙って手を挙げているが二人の視界には入っていないのか、気付いた様子もなく口論に熱が籠もっていく。 「くなろー、マジで人をイラッとさせてくれちゃってまー憎たらしい! 職持たない若者に馬鹿にされる俺の気持ちも考えろー!」 「そっちこそ!」 「…………あのー」 「大体俺は今までそういう気に入らない組織は潰してきたし、依頼も断ってきた。実力勝負なら負ける気しないねーアンタみたいに飄々軽そうな奴に!」 「おー言ったなぁこの遅れた反抗期め! 俺だって上司の許可さえ降りたら実力勝負でだなぁ」 バゴンメシャゴバァン! ……ガタン。 「すいません、話を聞いてくれますか?」 トウハが打ち下ろした拳がテーブルを歪めた。冷や汗を垂らし、視線を下げた箇所はベッコリとものの見事に凹み、ひび割れて使い物にならなくなっている。真顔なのが尚更恐怖心を煽った。 「「…………はい」」 黙って着席。曲がったテーブルを挟んで二人は静かに向かい合う。 「互いに同意の下で勝負したらどうでしょうか。ランクを量る、という事も出来ますし両方納得が出来ると思います」 「……それは、いい考えだと思うです」 「彼の面倒は僕が見ますし、クルヴィスさんはファルドさんが事後処理してもらう形でどうでしょうか」 「いや、今ファルド一佐は……」 「じゃあロアさんで」 「ああ、そうなるよねーやっぱ……!」 このまま埒の明かない説得を続けるよりはよっぽど早い。両者の納得を得た所で、トウハが再び右手を挙げた。 「クルヴィスさん」 「なんでしょ」 「……備品の始末書、とかは……」 「………………あとで、俺やっときます」 [*前へ][次へ#] [戻る] |