リリカルなのは-Beautiful Fantasy- 残されたもの──W 機動武装隊は未だクレイモアの動きが掴めずに航海を続けていた。 トレーニングルームではトウハがなのはの訓練を受けていたが、それを眺めていたクルヴィスを除いたメンバーが唖然としている。 全弾回避、全弾迎撃。手馴れた動きには流石に珍しく見に来たはやても開いた口が塞がらない。 「……あー、解説のクルヴィス三佐? これはどういうことでしょうか」 「いつ俺が解説になったのかはともかくとして、司会の八神三佐の疑問に答えるとするなら」 「するなら?」 「魔導師が魔法使えなかったら一般人、以上です」 「……なのはちゃん、運動苦手やったなぁ」 そんな昔を思い出すも、それにしたってトウハの剣術の腕を見てクルヴィスは眉を寄せていた。 「それにしてもアレはおかしくねーか? アタシは詳しくねーからわかんねーけど、武術って極めたら皆あんな風になんのかよ?」 「そんな漫画やアニメやフィクションじゃないんですから。あそこまでは」 一礼して終わると、挨拶もそこそこにトウハは去っていく。 「ならクルヴィス、ちょっと私と手合わせ頼めるだろうか」 「お、おおう……これは思わぬとこから挑戦が……お手柔らかに」 シグナムに挑まれたクルヴィスはやはり常識的な強さで四苦八苦しながらもなんとか勝利を収める、その瞬間に逆転された。 「ふむ、やはりトウハがおかしいだけか」 「だから、そう言いましたよねぇ俺……!」 「おーい衛生兵ー、クルヴィス医務室に連れてけ」 与えられた自室に戻ったトウハは刀を立て掛けてベッドに腰を下ろすとため息を吐く。ここ最近はずっとこんな調子だ。 それでも頭から離れないのは親友と、あの化け物。そしてリヴァル。振り払う。 余計な事を考えるのは止そう。 (……神風) まさかこんな形で再会することになるとは思いもしなかった。 何故自分を追って来たのか。何故逃げた、とその言葉が気持ちを沈ませる。両手を眺めれば何の事は無い普通の手。人間の掌。 逃げた──自分は、全て置いてきてしまったのだ。なのに、その忘れ物を届けに親友は追ってきた。それが逆に追い込む行為といざ知らず。 (……いや、それも僕が悪いのか) “こんな力”があるばっかりに、沢山の人に迷惑を掛けて。 大勢の人を傷つけて。数えきれない位の人たちを悲しませて。それでも「ありがとう」と、そう言ってくれた。 必ず──そう、必ず。あの化け物は自分が討つ。 カッ、と。足音に視線を向けて、いつの間にかシーナが沈んだ様子で立っていた。 「……ごめん、気付かなくて。なに?」 「んー。なんか、トウハが怖い顔してたのがショックで……いつも、なんか人形みたいでさ。本当に時々だけど、普通の人間みたいに笑ったり泣いたりしてて……なのに」 「…………」 「あ、いや。別に悪い訳じゃなくて……」 「シーナ」 顔を上げたトウハの瞳は、青く変色している。戦う時はいつもそうだ。それを抑えようと深く息を吐き出す。 「……大丈夫、だから。大丈夫……必ず、一緒に帰ろう。元の世界に」 「……うん」 その言葉に、頷く事しか出来なかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |