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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
過去に絶望を、未来に希望を──X



 ……──。

「嗚呼、私の負け……か」
 身を守る盾も、敵を貫く槍も、一刀で無に還された。逃げも隠れもせず、どこまでも素直で正直に、無名の騎士は付き合ってくれた。本当に自分は──人に恵まれたものだ。
 ガランガランと、その手からランスがこぼれ落ちる。膝から崩れ落ちて、それでもリヴァルには身を焼くような激痛が訪れない。まるで安らぐような心地で、斬られたはずの身体を探ろうとして──右腕が消えている事に気付いた。

 そこは、がらんどうで。そこにはなにもなくて。
 リヴァルは、自己の存在が本当に儚い夢のような存在だと思い知らされた。

「礼を言う、騎士よ……」
「……どういたしまして」
 振り返る事は無い。お互いに雌雄を決したのだ。これ以上の言葉は水を差すだけの事。
 だが、やはり聞きたい事が在る。

「……私は、死ぬのか?」
 死にたくない、と。切に願う。しかしそれでも、ここが夢の終わりだ。

「……貴方に、帰る場所があるのなら」
 血糊のない刀を振り、切っ先を鞘の中へと沈み込めていく。

「其処に、帰るだけですよ──騎士団長」
 キン──、鯉口を閉じる音。リヴァルはその言葉に安心して、

「ああ、そうか……」
 そう頷く。

 世界を変える事のない小さな人間の決闘が幕を閉じる──

「────トウハ」
 ザッ……、足を止めて耳を傾けた。木々の木漏れ日の中で、青空を眺める一人の騎士は目尻に涙を浮かべていた。勝者に勝利の戦利品を投げ渡す。

「今日は……いい、天気だなぁ」
「…………ええ、本当に。いい青空です」

「死ぬには、この上ない……最高の日和だ」
「──そ、う……です、ね……っ!」

 此処が、リヴァルの夢の終わり。
 そして、世界の始まり。






 …………。

 ──────。

「…………!」

 ────!

「……──ル!」
「…………ん、おお?」

「まったく、貴様は何を寝ているか! 敵が来ているぞ!」
「はっは、いやぁ、それはすまないな」
 目を擦り、涙の跡を拭う。

「なんだ、泣いていたのか? どんな怖い夢を見ていたというのだ、騎士王殿」
「……いや。いい夢であったよ、最期を飾るに相応しい程にな」
 テントをくぐれば、そこは曇天の戦場。
 火の手が上がる中に現れた一人の騎士団長に、騎士達は駆け寄る。

「アーサー、帝王の一派がこちらへと侵攻を開始しています!」
「ほう、聖王でなく、覇王でもなくか! 面白い!」
「て、撤退は……!」
「逃げ遂せたい者は行くがいい、己は止めはせぬ! 騎士道に反し、敵に背を向け逃げた事を己の誇りとする者は好きにするがいい! 守るべき者の為に我らは剣を執るまでの事だ!」
「しかし、勝算は!?」
 その不安を、笑い飛ばした。

「知らんさ、そんな事を気にしてどうする! 己の命を賭して守るのは自らの命ではあるまい。聞け、我が名の下に集う誇り高き者達よ! 騎士王、アルトリアの言葉だ!」

 ──悪夢の終わりは、希望に溢れている。

「我らは無名の騎士団! 逃げはせん、隠れもせん! ただ今日と言う日を生き延びるのみだ! 己の運命を切り開く剣は自らの手にある事を忘れるな!」
「騎士王、来ます!」
「うむ、よろしい。ならば行こうか、あの戦場へと!」

 ……それは、誰も知ることのない無名の騎士達の誇り。生き様。散り様。闘争。決闘。死闘。仲間。──守るべきものの尊さを記した物。

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